或る「小倉日記」伝 傑作短編集1 (新潮文庫)

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  • 新潮社 (1965年6月30日発売)
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「松本清張」の短篇集『或る「小倉日記」伝 傑作短編集〔一〕』を読みました。

『聞かなかった場所』に続き「松本清張」作品ですね。

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『松本清張傑作短編集』は、現代小説、歴史小説、推理小説各2巻の全6巻よりなる。
本書は現代小説の第1集。
身体が不自由で孤独な一青年が小倉在住時代の鴎外を追究する「芥川」賞受賞作『或る「小倉日記」伝』。
旧石器時代の人骨を発見し、その研究に生涯をかけた中学教師が業績を横取りされる『石の骨』。
功なり名とげた大学教授が悪女にひっかかって学界から顛落する『笛壺』。
他に9編を収める。
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嫉妬や劣等感、様々な葛藤等の人間の闇の部分を抱えた人物の悲哀を描いた、どちらかというと陰鬱で重々しい物語を中心に以下の12篇が収録されています。

 ■或る「小倉日記」伝
 ■菊枕
 ■火の記憶
 ■断碑
 ■笛壺
 ■赤いくじ
 ■父系の指
 ■石の骨
 ■青のある断層
 ■喪失
 ■弱味
 ■箱根心中


現代小説を集めた作品集なので、テーマに類似性が感じられ、ある程度カテゴライズができました。

『或る「小倉日記」伝』、『菊枕』、『断碑』、『石の骨』は、考古学や俳壇等の特定の専門分野等において優れた才能を持ちながら、様々な原因から世の中から認められず、もがき苦しむ模様や、それを支える家族を描いた作品。

『或る「小倉日記」伝』の、白痴のような風貌と歩行が不自由な障害を持つが頭脳は明敏で「森鴎外」が小倉に滞在した際の事績調査に執念を燃やす「田上耕作」、、、

『菊枕』の、その境遇から才能を開花させることができないコンプレックスに悩みながら、世俗的な成功を夢見る俳人の「杉田久女」、、、

『断碑』の「木村卓治」と、『石の骨』の「黒津」は、いずれも不遇な考古学者、、、

どの作品の主人公も、認められたいという欲求が満たされず、コンプレックスを感じながら、過激な行動に移ったり、夢を諦めたり… 薄幸な生涯の悲劇性が前面に押し出された作品群でしたね。


『青のある断層』は、ちょっと趣向は異なりますが、才能を持つ人間の悲劇性を表した部分については、その延長線上にある作品かな。


『火の記憶』、『笛壺』、『赤いくじ』、『父系の指』、『喪失』、『弱味』、『箱根心中』は、理屈では割り切れない男女の関係や、そこから生じた悲劇、肉親だからこそ存在する愛憎について描いた作品。

これらの作品は、後々のミステリー作品にもエッセンスが引き継がれている感じがします。

その中でもイチバン印象に残ったのは『火の記憶』、、、

幼い頃のおぼろげな記憶に残る、暗闇の中に見える赫い火の情景… 自分のルーツを探る、ある意味、ミステリーっぽさのある作品でしたね。


作品の性質上、気持ちが暗くなっちゃう作品が多かったですが、これが現実なんですよねぇ… 他人事じゃないと感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: <読む>ミステリ(国内)
感想投稿日 : 2022年7月10日
読了日 : 2014年7月10日
本棚登録日 : 2022年3月11日

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