行人 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1952年3月24日発売)
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本棚登録 : 2280
感想 : 180
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私は、色々読んで、漱石の妻が嫌いだ。
この本を読んでいくにつれて、漱石が自分の妻と(浮気という観点ではないが)、心がちっとも通じている気がしなくて苦しかったんのかなーと同情を感じてきた。

この話は、後期三部作と言われる彼岸過迄から確かに続いている。彼岸過迄の須永と今回の行人の兄さんが似ている。
二人とも、最も身近な存在の女性の”本当の気持ち”を求めて、袋小路に迷い込む。
しかし、1作目の須永はが悩むのは少し複雑な事情がある関係の二人の恋愛関係が軸で、それ以外の要素もあるが、細かい気持ちの描写を読むと、それは恋だねとかわいく思える部分もあった。
ところが、今回の兄さんは、気持ちの読みにくい妻への疑いを通して、家族、ひいては長年の親友に対しても疑いの心を持ってしまって、もっと重症だ。

とはいえ、気持ちは分かるので、読んでいて悲しく切なくなる。
それに、兄さんが決して、悪い人なわけではなく、ただまじめで、ものをいい加減にすませることができなくて、人間関係が不器用なだけで、程度の違いはあれ、誰にでも身につまされるところはあると思うので、より救われない気がする。

行人というタイトルの意味も調べた。勝手に、行動する人という意味かと思ったが、修行者などの意味もある単語らしい。
奥が深い。

また、引用したが、兄さんは人の心を解ろうとして、弟の僕は分かるもんかと使っている漢字が違うのも興味深い。
すでにここからして、同じわかるという認識であろうと会話しているが、実のところか分かり合えていないということを伝えているんだろうか?
兄さんの使う解るは解剖して細かいとこまでの解る、弟の分かるはあぁ、悲しいんだなーとかそういったレベルの分かるを意味しているのではないだろうかと思った。

これがさらに進行したのが、こころで。こちらへ向けて、3部作はどんどんと不幸度が増していく。

こういった心の襞を解剖して、たくさんの人生の出来事をわかりやすく例として示してくれるのが、暗くてしんどいが、読める作品として仕上がっていて、さすが文豪だと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 純文学
感想投稿日 : 2022年2月18日
読了日 : 2022年2月18日
本棚登録日 : 2022年2月18日

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