当時、文化庁長官もつとめていた心理学者で心理療法家の河合隼雄と、小説家である小川洋子の対談が主な内容です。2005年と2006年に行われた二回分の対談が約100ページ、対談の翌年に亡くなった河合氏に向けた小川氏による追悼文が約30ページです。
第一回は2005年の雑誌・週刊新潮における対談で、映画化作品も含めて小川氏の小説『博士の愛した数式』を主要な話題としています。これを受けて翌年に行われた第二回は、カウンセリング、箱庭療法、『源氏物語』、宗教(小川氏の両親・祖父母が信仰していた金光教についてを含む)、日本と西洋の価値観の比較など、扱うトピックは様々ですが、大きくは物語とは何であるかを巡る対話となっています。全般に、どちらかといえば小川氏が河合氏から知見を引き出す傾向が強かったように思います。河合氏がときおりダジャレを発すのは、村上春樹との対談同様でした。
二回目の対談の終わり方を見る限り、継続的な対談が企画されていたように見受けられます。文字サイズも大きく一冊の書籍としてはボリュームが不自然に少ないのは、対談から二か月後に河合氏が倒れて翌年に亡くなったために計画が頓挫した影響でしょう。自然と小川氏による追悼文は、二回の対談を振り返る意味合いが色濃くなっています。
以下、印象に残った言葉を私なりに箇条書きで要約して残します。
・友情は属性を超える
・良い作品(仕事)は作り手の意図を超えて生まれる
・分けられないものを明確に分けた途端に消えるものが魂
・やさしさの根本は死ぬ自覚
・魂だけで生きようとする人は挫折する
・カウンセラーには感激する才能が必須
・一流のプレイヤーほど選択肢が多い
・奇跡のような都合のよい偶然は、それを否定している人には起こらない
・物語を必要としなかった民族は歴史上、存在しない
・小さい個に執着すると行き詰まる
・人間は矛盾しているから生きている
・矛盾との折り合いにこそ個性が発揮され、そこで個人を支えるのが物語
・望みを持ってずっと傍にいることが大事
- 感想投稿日 : 2020年10月23日
- 読了日 : 2020年10月23日
- 本棚登録日 : 2020年10月23日
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