ゼロ年代の想像力

著者 :
  • 早川書房 (2008年7月25日発売)
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感想 : 73
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2014年3月25日読了。2000年以降、ゼロ年代の文学が語る「物語」に対する考察。批評界は未だ、エヴァンゲリオンが代表する95年的な物語(「問題に対し選択をせず、引きこもる」)を引きずっており、複数の島宇宙が乱立しそれが対立するバトルロワイヤル的・決断主義的なゼロ年代の物語に対応できていない、とする主張は分かりやすく、目が覚める思いだ。特に私が親しんできた東浩紀のゼロ年代文学批評を一部評価しつつも「時代遅れ・安全に痛く自己反省するマチズモの回路」とバッサリ切り捨てるさまには開いた口がふさがらない。かつて思想家が夢見たように、「各自が好きなコミュニティに属し、信じたいものを信じる」島宇宙世界は決して幸福なものではなく、排他的・暴力的性質を帯びるというのは現実がそうなっているとおり。その暴力の連鎖を超えるために現代の作家たちが葛藤しながら出す答えは、決断主義的物語ではなく「限られた時間の中で(終わりある日常を生きろ)、ゆるやかな共同体と生活を営む」ことであるとのこと、宗教や主義主張に自分の身をゆだねるのではなく、ここにいる自分と、その周囲の面々との関係性を豊かにすることを志向すること。それがゼロ年代に生きる我々が求める物語なのだろうか。すぐれた物語の語り手として、TVドラマ・少年ジャンプ・仮面ライダーを取り上げているのが面白い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2014年3月25日
読了日 : 2014年3月25日
本棚登録日 : 2014年3月25日

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