2019年10月10日読了。休暇をとった英国の老執事は、自動車旅行の途上で自分の執事人生・主人・館での日々を回想しはじめ…。ノーベル賞作家となったイシグロ氏の99年の作品だが、ものすごく「テクニカル」な小説だ、という印象。文体は優雅だし(英語で読んでみたいもの)、一人称の主人公の手記という形式にも不自然さが全然なく、語り手が「語らないこと」を否応なく意識させられる構成、世界情勢やイギリスの変化に想像が膨らむ描写、など実に見事な小説だ…。「主人公がプロの執事」である、ということが「肝心なことを語らない語り手」という設定に必然性を与えている、ということにも感心する。ラストも、もっと違う形のエンディングもあり得たと思うが、「この終わり方にしてくれてありがとう」と作者に言いたくなる洒落たもの。胸が苦しくなる・後悔する思い出がある、というそのことこそがまさに「自分の人生を生きた」ということの証になるのではあるまいか。
読書状況:読み終わった
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その他フィクション
- 感想投稿日 : 2019年10月11日
- 読了日 : 2019年10月10日
- 本棚登録日 : 2019年10月10日
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