神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2002年2月28日発売)
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東京駅で新幹線を待ちながら、手持ちの本を既に読み終えていたことに気づく。慌てて、構内の小さなブックストアに入って、店頭で目につくのは実用書ばかり。小説のコーナーにあるものも流行りの推理小説やシリーズものばかりで諦めかけたが村上春樹のゾーンを発見。なんだかんだで間違いがないからと購入したがミニマルなのに煌びやかな素敵な作品群だと感じた。
「面白い」の意味を起承転結のはっきりしたものと捉えるなら「蜂蜜パイ」は中編をぎゅっと凝縮した感じがある。
途中の「淳平が書く短編小説は、主に若い男女のあいだの報われない愛の経緯を扱っていた。結末は常に暗く、いくぶん感傷的だった。」はまさに「蜂蜜パイ」の結末それ自体を暗示しているかのようだったが結末は意外。

「かえるくん、東京を救う」は節々で出てくるかえるくんの引用が知的。アーネストヘミングウェイの「僕らの人生は勝ちかたによってではなく、その破り去り方によって最終的な価値を定められる」と言う発言はどこからきたものなのか、調べてもわからなかったけど大切にしたい言葉。

なんだかんだで一番こころに残ったのは「アイロンのある風景」かな。三宅さんや順子のみならず現実においても多くの人にとって焚き火がカタルシスであるのはそれが死への憧憬のメタファーだからだろう。燃え盛る炎に生の煌めきを見るのではなくたゆたうように燃え、いずれは消える炎にこそ惹かれる。

新幹線で着いた先で友人達とビールを飲みながら見た無数の花火を見ながらそんなことを考えた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年8月7日
読了日 : 2022年8月7日
本棚登録日 : 2022年8月7日

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