三四郎 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1948年10月27日発売)
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感想 : 628
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明治時代という旧時代の因習と新時代の気運が渾然一体となった時代を切り取った青春小説。読了した後に見た、中田のあっちゃんのYouTubeでは明治時代のトレンディドラマと銘打たれていて、なるほどと思った。三四郎をコミカルに演じるあっちゃんの演技力で読みも深まった。正直、一読しただけでは心内描写がふんだんにある三四郎はともかく、美禰子をはじめとする他の登場人物が何を考えているか理解するのは難しかった。
三つの世界を持ち出して、勝手に脳内で国から母を招いて、美しい嫁さんをもらって、学問するなどという大それた妄想をする割には美禰子の気持ち一つわからない三四郎が愛おしい。特に随所で見せる家族愛が人間らしい。
少なくとも人間の見方において漱石自身に最も近いのが広田先生かと。明治時代、日露戦争に勝利し、日英同盟に湧く日本を亡びるねと断じる。愛国心、家族制度と言った伝統が漱石の唱える個人主義と対立する様を風刺的に描く。それでも広田先生を偉大なる暗闇として成功者として描かなかったのは漱石の少しばかりの厭世主義のあらわれだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年11月2日
読了日 : 2021年11月2日
本棚登録日 : 2021年11月2日

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