峠(中) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2003年10月25日発売)
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上巻では、主人公の河井継之助は、長岡から江戸へ遊学し古賀謹一郎門下となり、その後当時藩政改革で名を知られていた備中松山の山田方谷のもとを訪れる。修行をつみ、身から藩政改革のエッセンスを吸収し、再び長岡へ帰る。

中巻は、継之助が長岡に帰り、外様吟味という地方官に任命されるところから始まる。この抜擢を行ったのは、藩主牧野忠恭であり、抜擢された継之助は一途に藩政に尽くそうとする。

もともと継之助の発想が、いわば藩至上主義的であって、世の中がどのように動こうとも、まずは自藩の安定が第一という発想のように思われる。

彼はその直後、郡奉行へ昇格し、そのポストの権限を大いに活用して、藩政改革の初期活動を開始する。当世の金の流れに着目し、浪費を減らして藩の体力を強めようと、まずは賭博と買春を即刻禁止する。自ら現場で裏をとる摘発方法や見せしめ付きの必罰主義などで、なかば恐怖政治的に、改革を進めてしまう剛腕ぶりである。

そんな剛腕な河井継之助も、時代の流れに飲み込まれ、京や江戸での働きはそれほどぱっとしなかったというのが印象だ。

桜田門外の変以降、急速に幕府の権威は衰退し、倒幕の動きが加速されてくる。徳川の譜代である長岡藩の忠誠を示すため、藩主とともに継之助は京都へおもむくが、正直のところこの時代の流れがあまりにも大きくそして速すぎて、一藩の家老である継之助には、時勢の読みはできても、全く手が出ないといった感じだ。

そのまま慶喜の遁走とともに、長岡藩も江戸へ引き上げ、手をこまねくばかり。他藩に先駆けてせっかく買い付けた最新式の機関銃も使う機会なく、宝の持ち腐れ状態のような感想をこの時点ではもった。

江戸在留中に通訳士の福地源一郎の紹介で、継之助は福澤諭吉と直接話す機会を持つ。この二人の対話シーンは非常に面白く読めた。

世界に追いつけと日本一国の未来を語る福澤と藩至上主義の河井。まったく話がかみ合わない。ただ考え方が異なるだけではあるのだが、やはりスケールの違いとして感じてしまう。

やはり河井は、「藩」という閉じた概念から飛び出すことはできなかったんだなと感じる。その枠を超えて発想できる人物が偉大だっただけのかもしれないが。

いよいよ幕府の命脈が断たれようとする中、河井は長岡藩をどの方向へ進めていくだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 司馬遼太郎
感想投稿日 : 2018年6月16日
読了日 : 2018年6月16日
本棚登録日 : 2018年4月7日

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