人質の朗読会

著者 :
  • 中央公論新社 (2011年2月1日発売)
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次は何を読もうかと、「本屋大賞」のノミネート作品を過去にさかのぼって見ていて、「じゃ、コレにすっか」というくらいの感覚で本書を選びました。

でも数年前に読んだ「博士の愛した数式」で、その内容だけでなく、その文章そのものに、彼女のファンの一人となったからというのも選んだ理由の一つです。

2012年の本屋大賞ノミネート5位の作品。

日本人観光客8人がツアーの途上、南米の反政府軍ゲリラに人質として監禁され、ついには爆破により全員が死亡してしまうというシチュエーションでの、それぞれの人質が生存時に語り合った話で構成されている。

読後記録として、目次をとりあえず記しておこう。
※観光客の人数より数が一つ多いのは、この人質事件に派遣され犯人の盗聴などの任務に就いて特殊部隊通信班員の話も加わっているから。

第一夜 杖
第二夜 やまびこビスケット
第三夜 B談話室
第四夜 冬眠中のヤマネ
第五夜 コンソメスープ名人
第六夜 槍投げの青年
第七夜 死んだおばあさん
第八夜 花束
第九夜 ハキリアリ

タイトルをずらり眺めただけでも、著者の発想のユニークさが伺えるような気がする。実際、それぞれの人質は偶然に同じツアーに参加しただけであり、そのバックボーンはそれぞれまったく違うので、一人ひとりが語る内容が全く違うというのは自然だし、話の角度が違っているからこそ読み物としては面白い。

だがふと考えてみる。
こういうシチュエーションに自身が巻き込まれたとき、いったいどんなことを自分なら語るだろうか?

もちろん朗読会という設定なので、非常に緊迫した状況下ではないだろう。ある程度冷静を保ちながら、しかし生命のリスクの中に放り込まれた状況下という感じだろうか。

これが遺言的な話ではなく、それぞれの人生経験のなかにおいてもっともインパクトの強かった出来事を語っているという感じ。

彼女の作品は、とても描写が細やかで、体の動き、背景の動き、心の動きが絶妙に表現されている(と私は思う)。そんな文体が好きなのだと思う。

第六話の「槍投げの青年」はこの中では、一番いい作品だなと自分は感じた。会社をさぼるシーンが出てくるが、思い当たる節があるだけに、その描写に思わず「うまいなぁ」と胸中でうなずきましたね。

ただ、全体的に少し「明るさ」がない。・・・それもそうか、人質が語る話だからね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小川洋子
感想投稿日 : 2014年9月20日
読了日 : 2014年9月20日
本棚登録日 : 2014年9月20日

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