ブックオフで買ってストックしてた本だが、手を付けないまましばらく放置してあった。読み始めてみると、予想外に面白く、最後まで飽きることなく読める。特に科学に関する様々なエピソードが紹介されていてとても面白い。
つかみの「飛行が飛ぶ仕組みがまだ完全に解明されていない」という事実も驚きだったが、その説明もまたブルーバックスのように科学的な仕組みを素人にもわかるように説明してくれて分かりやすかった。本書全体がそんな感じだ。
衝撃的だったのは、ノーベル生理学・医学賞をとったエガス・モニスという人のロボトミー手術の話。
ロボトミー手術とは、精神病の治療を目的として、前頭葉を切除する手術のことだそうで、当時1万人以上の患者に施されたという。権威あるノーベル賞のお墨付きを得たこの手術が、なんと誤った治療法であったことが後に判明する。一万人以上の人が誤った治療法の犠牲となって、命を落とし、精神を奪われたというのだ。残酷な話である。
著者は、世の中は99.9%が仮説であり、その反証が示される都度、これまでの「正しい」が一転して「誤り」となるという。この転じる様を、著者は「白い仮説」から「黒い仮説」への転換と呼んでいた。科学も文化と同様、時代とともに塗り替えられていくという説明は説得力があった。
99.9%と言われると0.1%に関心がいく。99.9%が仮説なら。0.1%が真実であるということか?
あのデカルトは、すべてを疑いにかかって、「考えている自分自身の存在」だけが最後に残った(=我れ思う故に我れあり)。このことを言ってるのかとも思った。
著者は、エピローグで「すべては仮説にはじまり、仮説に終わる」という本書の主張は反証可能か(つまりこれは仮説か)?・・・と読者に問いかける。
もし反証不可能(=仮説ではなく真実)であると仮定すると、「すべては仮説にはじまり、仮説に終わる」という内容と矛盾してしまう。するとその仮定は誤りで、これは反証可能の仮説ということになる。つまり終始100%仮説なわけではないということとなり、そこから99.9%という表現とされたのかとも考えてみた(本書に著者の答えはあえて書かれておらず、自分で考えろと言っていた)。
いずれにしても、世の中は99.9%が仮説なのであり、それはいつ覆されてもおかしくなく、これまで真実と信じていたことが覆った際には、悲劇が伴うことが常であるので、あらゆる仮説は疑ってみる価値はあると著者は言う。
その後にアインシュタインの「相対性理論」の話と「役割理論(人は複数の役割をもつので、人の性格を一つに決めつけるのは正しくないという考え)」の話が出てきて、仮説の考え方が一転する。「どっちが正しいか」という議論だったものが、「どちらも正しい」(=複数の仮説が共存する)に変わる。
前半の話で「思い込みにはリスクがある」ということが述べられ、アインシュタイン以降の話で「もっと広い視点で物事を観よ」ということを述べられているように思う。
第二次世界大戦のころの日本では、本書で言われているように「人殺し」は正義という時代だった。今は真逆だ。人殺し=白い仮説が、黒い仮説に転じた。
今後、時の指導者や思想の影響で、これがまた白に転換されてしまう可能性もある。そういうことを見極めるための柔軟性をもつために、「世の中のことは仮説でできていて、時代などの影響で変わりうるものだ」と認識していることが大事なのだろうなと思った。
- 感想投稿日 : 2022年1月10日
- 読了日 : 2022年1月9日
- 本棚登録日 : 2020年11月22日
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