恩讐の彼方に

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  • ALLVD (2012年9月27日発売)
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感想 : 40
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こちらも「青空朗読」で聴読。
小学生くらいのころに、何かのマンガで「青の洞門」を読んだ記憶がある。
この小説は、その「青の洞門」(大分)を掘った禅海和尚の実話をモデルとして創作された作品とのことである。

小説では、主殺しや人斬り強盗を働いてしまった罪に苛まれ続けた主人公・市九郎(のちに出家して了海)が、その罪滅ぼしに、人々が命を落とす難所にトンネルを掘ることに自分の残りの人生をすべて費やし続け、完遂するまでのドラマが描かれていた。そこには、市九郎に殺された父の仇討を願い続けてきた実之助との絡みも描かれている。

了海は小説上では20年超をかけて、ノミと槌だけで掘り進んだ。
実際の禅海和尚は約30年かけて彫りぬいたとのこと。

ネットでその長さを調べてみたところ、「ノミと槌だけで掘り抜いた長さは約342メートル、そのうちトンネルの部分は約144メートル」と記されていた。

仮に330メートル30年とすれば、1年に11メートル、そうすると月に1メートルほどということになる。とてつもない地味な作業である。その間、それを見ていた周囲の者から狂人扱いされたというのもわからないでもない。

そしてまた、その地味な作業を何年もやり続けることにより、周囲の心が協力の心へと変化したり、そしてまた離れて行ったりというようなことが小説の中でも描写されている。

仇討をトンネルの開通まで待ってくれと石工に頼まれた実之助は、仇討の時期を早めるために、穴掘りの作業に協力する。そして、トンネルが貫通したとき、了海の成し遂げた姿を目の当たりにして、その仇討の心は浄化されて消えてしまうのである。

人の心の移り変わりをとらえた作品であるなと感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 菊池寛
感想投稿日 : 2022年10月24日
読了日 : 2022年10月14日
本棚登録日 : 2022年6月18日

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