パンプキン! 模擬原爆の夏

  • 講談社 (2011年7月27日発売)
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ここでいう「パンプキン」とは、模擬原爆のことを指す。ずんぐりとした形状でオレンジ色に塗装されていたことから「パンプキン爆弾」と呼ばれていた。

模擬原爆については、先日読んだ橋爪紳也氏の『大阪万博の戦後史』で初めて知った。
「大阪市東住吉区に投下された」というショッキングな一文を受けて、他の内容が頭に入ってこず。その後、別途調べてみようと文献を探していたら真っ先に本書に辿り着いたのである。

大阪市東住吉区に住む小学5年生のヒロカは、東京に住むいとこのタクミが祖父の家に来ることを知る。タクミは自由研究のテーマに模擬原爆を選んでおり、その調査のため高校教師だった祖父のもとを訪ねたのだ。
頭はいいけどとっつきにくいいとこの来訪に戸惑いながらも、行動を共にするうちに地元で起きた惨劇についてヒロカは目を向けていくようになる。

ヒロカ同様、広島・長崎の原爆は知っていても模擬原爆については名前すら聞いたことがなかった。本の袖には模擬原爆とそれを伝える碑の解説が記されている。
模擬原爆には核物質は含まれておらず、投下しても核爆発は起きない。しかし長崎に投下された「ファットマン」とほぼ同じ形状をしており、重さは約5トンもあった。
本物の原爆を投下するには技術(目視で目標地点に落とす・衝撃波に巻き込まれないよう退避する等)が必要だったため、その練習用として米軍は模擬原爆を開発。1945年7月20日〜8月14日にかけて、東住吉区を含む30都市に49発が投下されたという。

「この先も、かぼちゃを見るたびに、パンプキン爆弾のことを思い出すだろう。あのコンビニに行くたびに、慰霊碑のある場所を気にして、必ず見てしまうだろう。このことを知る前の自分には、ぜったいにもう、もどれないのだ」

小学校時代、自分も広島への修学旅行前に行われた平和学習でそんな複雑な想いを味わっていた。
多感な子供時代、視覚で入ってきたものは記憶に残りやすい。寝る前には業火のような火の手と彷徨う市民達が闇の中に浮かび上がる。この恐怖を抱えたまま日々を過ごすのが辛くて、修学旅行当日を迎えてしまった。

調べ物をしに出かけた図書館で、ヒロカがタクミにばったり出会う場面がある。
タクミの本当の来阪目的が明らかになったり模擬原爆研究へのお互いの本心を打ち明けるうちに、二人の障壁は次第に取り払われていく。ヒロカの抱いていた「複雑な想い」もそこで霧消していった。

自分の修学旅行当日を思い出す。
人々が足早に通りすぎていく蝋人形前を同級生と手を繋いで順番に目に焼き付けていた。
恐怖は消えなかったけど、同じ場所で誰かと想いを共有した時に「もっと知っていこう」と前に進めるのかな、と今になって思う。ヒロカたちの心の交流を追体験しながら、自分の心はあの頃に戻っていた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年10月29日
読了日 : 2023年10月29日
本棚登録日 : 2023年10月29日

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