テロルの決算 (文春文庫)

著者 :
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感想 : 40
5

高校時代の友人に勧められた一冊。
ノンフィクションは元から好きだったが、本件に関しては特別に面白かった!!実は以前も彼女から別の本を勧められて読んだのだが、本書同様自分から選ばなさそうなのに最後まで夢中で読み耽った。
そのこともあって、彼女のことは勝手に「読書の達人」と呼んでいる。

沢木耕太郎氏の代表作といえば『深夜特急』シリーズで、自分も2年ほど前に何とか読了した。本書も『深夜特急』と同じくノンフィクションではあるが、何と調査は7年にも及んでいる。

「特別に面白かった」と言うのは、ジャーナリスト顔負けの真に迫った調査にある。
1960年社会党委員長 浅沼稲次郎が、演説のさなか青年 山口二矢(おとや)によって刺殺された事件をテーマに加害者・被害者の経歴や周囲の人間関係、事件前後の出来事、現場にいた人々の動向までもが如実に描写されている。それはさながら再現ドラマを見ているようで、事件のことも知らなかったのに人々の表情が目の前で映像化されていた。
こうした思いもよらない事件は幾つもの偶然から成り立つものだが、いざそれらを列挙してみると二矢の悲願成就のためだけに用意されたかのように錯覚してしまう。

二矢は幼少期から大人びている上に礼儀正しい一方で、自分の意見を曲げない頑固な面があったと本書では捉えられている。あとがきでは「明確で直線的」と、まるで最初から自分で考えて行動したかのように捉えそうになる。
しかし自分には、愛国党という強烈な右翼団体と思想にいとも簡単に魅せられ、あらぬ方向に流されてしまった未成熟な青年と映った。(元々は自分より先に右翼活動をしていた兄への対抗意識だったという点も含めて)

そればかりか、以前『普通の若者がなぜテロリストになったのか』で読んだ現代の若いテロリストたちを彷彿とさせた。党員同士のテロ実行を予見させるような過激な会話に刺激を受け、最終的にはそれが自分の役割なんだと盲信しながら標的に飛び込んでいく。そして心配をかけぬよう家族には一切何も明かさない。
「自分ひとりで実行した」と言い張っているけど、それこそ(当初周りが疑惑を持ったように)黒幕だって実在していたのではないか。今更自分なんかが推測しても仕方のないことだが、自分を持った青年だとはどうしても思えなかった。


「吾等は頭の青年であると共に行動の青年でなければならぬ」
「大勢の中に居ることを望みながら、結局、あの人は独りきりだったのではないか」

浅沼もまた行動が速く、そして終生頑固な人物だった。
周囲の反応などお構いなしに、全国津々浦々遊説に赴く。刺殺事件の発端とも言える政治的問題発言も、最後まで曲げようとしなかった。
頑固さから社会党内外に敵を作っていく浅沼と、愛国党内外を信用しなくなる二矢。そんな2人が偶然が重なった挙句に交錯を果たす。そこから発せられた鮮烈な印象は、頭から離れることはない。
「読書の達人」よ、パンチの効いた読書体験を有難う。


【最後に本書をお読みになった方へ】
終章で診療所を訪ねていた「男」は、著者なのでしょうか…?つまらない質問でしたら申し訳ありません汗

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年9月27日
読了日 : 2023年9月27日
本棚登録日 : 2023年9月27日

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