久々の初期の江國作品。
栞は、ある日お隣の薫平に「ヤドカリを見なかったか」と聞かれる。その場は知らないと答えた栞だったが彼女は家で薫平のものであろう〝醜悪な〟ヤドカリと出会う。
ファミレスのウエイトレスと、女性の服が似合う美しい兄の愛人である順子さんの経営するバー(というかスナック)で歌を歌う仕事をしている栞。仕事は夜なので朝眠り、昼前に起きては散歩へ出る、そして道楽でやっている道端の野菜売りのお婆さんと親交を深めたりする。そんな平和な栞に事件が舞い込む、美しい兄の、完璧に美しい妻の遥子さんが失踪したという。彼女の置手紙には〝私は、あれ、を必ず見つけ出します。だから心配せずに待っていて〟と。
二人を心配する栞の家に兄〝裕幸〟を〝幸裕〟と呼ぶ鳥の巣頭で薄幸そうな雰囲気のメグと幸裕が転がり込んでくる。
揺れだした平和がヤドカリ〝ナポレオン〟の来訪でさらに強い揺れへと移っていく。
訳をいちいちつけていけばいいのか、それとも不思議のまま丸のみすればいいのか。まるでアリスの世界のような酩酊に呑まれる、江國さんの毒に塗れた長編。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
情熱と寛容
- 感想投稿日 : 2013年10月13日
- 読了日 : 2013年9月18日
- 本棚登録日 : 2013年9月18日
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