二重らせん (講談社文庫)

  • 講談社 (1986年3月10日発売)
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感想 : 51

著者はDNAが二重らせん構造になっていることを突き止めて、ノーベル賞を共同受賞したジェームス・ワトソン。本書はベストセラーになったそうで、確かに面白い。科学的な話についていくのはしんどいが、鈍感でわからずの上司とか、重要な情報を握っている陰険で意地の悪い女科学者とか、ライバル同士の足の引っ張り合いとかが生臭い。組織ってのは、どこの世界も同じだな。優秀な科学者たちが、科学だけに専念することができれば、もっとよい仕事ができるのかもしれないのに、と若干憤慨しつつ読み進める。

が、だんだん違和感が。実名の登場人物たちがひどい書かれよう。実力者ブラック卿はほとんど老害。相棒クリックは優秀だがうざいトラブルメーカー。ロージィという呼び名で登場するロザリンド・フランクリンは性格異常の魔女みたい。それでも何度も登場するのは彼女の持っている研究成果が必要なせいだけれど、その辺のいきさつが本書からはいまいちよくわからない。著者ワトソンはとっぽいお人好し的なキャラで、結果として「好人物ワトソン君が魑魅魍魎の妨害をかいくぐって、DNA構造を突き止める話」になっている。著者がノーベル賞をとった勝ち組であることを考えると、なんだか一方的で、きな臭い。

で、ネットで調べてみたら、ロージィの研究成果はDNAの構造を突き止める上で欠くことができない要素であり、ワトソンやクリックはそれを正当な形で入手していない、という批判があることを知った。若くして亡くなったロージィは本書の出版時点で故人で、死人に口なし、何を書かれても抗議できない。あとがきでロージィとはその後和解したようなことを書いているが、それもなんとなく歯切れが悪い。

権力闘争や足の引っ張り合いや意地の張り合いが火花を散らす世知辛い科学の世界で、結局ワトソン博士も、同じ武器を使ってライバルを押しのけ、蹴倒し、成り上がってきたのでは? それが悪いとは言わないし、科学の世界で功成り名を遂げる人々がみんなそうとも思わないけれど、引くことは引く。やったもん勝ち、とったもん勝ち、言ったもん勝ちなのか?

ワトソン博士は後年、黒人は劣っているという趣旨の発言をして大炎上し、その後金に困ってノーベル賞のメダルをオークションで売りさばいたりしたらしい。科学上の功績は功績としても、著書をそのまま鵜呑みにしてよいのものかどうか微妙な気分。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自然・科学
感想投稿日 : 2016年5月4日
読了日 : 2016年4月20日
本棚登録日 : 2016年4月20日

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