食品の裏側―みんな大好きな食品添加物

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  • 東洋経済新報社 (2005年10月1日発売)
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ベーコンを自作したことがある。友達が「スーパーで売っているものとはまるで別物」と言うので、やってみる気になったのだ。
道具さえあれば時間がかかるが簡単だ。基本的には「塩すり込んで寝かせて煙でいぶす」だけ。材料は豚肉と塩だけ。お好みで胡椒とハーブくらい。

で、ワクテカしながら食ってみて、美味い!というより?となった。
スーパーの「ベーコン」とは味も香りも歯ざわりも違う。より美味い、より柔らかい、という「量」の違いではなくて、「質」が違う。「まるで別物のように美味い」という意味だと思っていたのだが、これは普通に別の食い物では? 林檎と梨のように。

これが「ベーコン」だとすれば、ぼくがスーパーで買っていた「ベーコン」って何なんだろう?
言われてみればあの柔らかさも妙だ。自作ベーコンは豚のブロック肉を70~80度くらいで熱燻して作るが、歯ごたえはしっかり残る。切るには包丁がいるし、そのまま食うのはちょっと無理。でもスーパーの「ベーコン」は素手でちぎれるほど柔らかく、そのままむしゃむしゃ食っても美味い。これっていったいどうやって作っているのだろう? 調べてみる気になった。

種明かしは本書で。というか、本当は先にネットで調べてショックを受けたのだけれど。キーワードは「プリンハム」。この製法は秘密でもなんでもない。知ったら黒スーツにサングラスの男が後ろに立っていた、ということもない。スーパーの「ベーコン」のパッケージの原材料ラベルには、ちゃんと「大豆たんぱく」「卵白」と書いてある。ベーコンに大豆? 卵?

高級スーパーに行って、大豆や卵の入っていない、「ベーコン」を探してみた。gあたりの値段を計算したら、大豆入りベーコンの2倍から3倍高い。スーパーの大豆入りベーコン/大豆なしベーコン、自作ベーコンの3つを食べ比べてみた。
・・・ああ、そうだったのか。

著者は食品添加物がみな悪というわけではないと繰り返す。ぼくもそう思う。知らずに食っていた大豆ベーコンは普通にうまかった。安いし長持ちする。自作ベーコンは冷蔵庫に入れておいても、2週間もすると大丈夫かな、という気分になる。
食品添加物は国の安全基準をクリアしている。自作ベーコンは誰の審査も受けていない。はなくそほじった手で触ったかもしれないし、床に落として3秒ルールを適用したかもしれない。どっちが「安全」かと言ったら、大豆ベーコンのほうかもしれない。
本物のベーコンではない、というだけの話なのかもしれない。

それは選択肢だ。
ぼくは大豆ベーコンがベーコンではないことを知らなかった。ベーコンのパッケージの裏を返してラベルを読んだ記憶はあるが、「卵? 風味付けにでも使っているのかな?」と思っただけだった。
今は大豆ベーコンと本物ベーコンの違いを知ったので、これからはどちらを選ぶか自分で決めればよい。

気になること。
食品添加物を使うと、旨いものが安くできる。そうすると本物は高いので売れなくなる。売れなければ食っていけないから、本物を作る人はいなくなり、手に入らなくなる。
それは間違っていると思うけれど、そうさせるのは消費者だ。大豆ベーコンと本物ベーコンの違いを知らないぼくのような、普通の買い手だ。

大事なこと。
子供の頃にどこかでスタインベックの掌編小説「朝食」を読んだ。畑で働く人たちの食べる焼きたてパン、カリカリベーコン、熱いコーヒーの「朝食」が悶絶的にうまそうで、思えばあれがぼくの食いしん坊の原点かもしれない。
でも、ぼくは今まで彼らが食べていたベーコンを、大豆ベーコンだと思っていたのだ。
本物ベーコンの味を知った今、はじめて本当に「朝食」を味わった気がする。これはぼくにとってはきわめて大事なことだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史・ドキュメンタリー
感想投稿日 : 2018年4月14日
読了日 : 2018年4月5日
本棚登録日 : 2018年4月5日

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