素晴らしい本だった。やはり高村薫は読み応えがある。
本作は高村作品にしては主人公が女性だったり、恋愛事にも結構なページが割かれていたり、といつもと違う感じが。それでも晴子が過去に思いを巡らし書き連ねている文章は優美でベタベタはしていなくても女性的で、また旧字体の手紙のお陰でこちらもタイムスリップしたような感じで小説の世界と晴子の少女時代に入り込めて・・やはりすごいです高村先生。
息子に何のために、何を伝えたくて何を残したくてこんな手紙を書いてるいるのか、こんなものを受け取った子供はどうすればいいのか?というのはさておこう。現実にはなさそうな強烈な母子の繋がりでも、圧倒的な作家の力量によってとても自然な事のように描かれていたと思う。母子の繋がりの観点から言えば、本作の締めくくり方は見事、と思うと同時に意表を突かれた。
いつもの銃器や機械描写の代わりに今回は漁業の描写がなかなか執拗で笑。漁船の中で語られる元日本兵の回想も作品に重みを持たせたと思う。漁の様子、方言、編み物まで・・一つ一つのディテールがすごかった。
最終章の青い庭は非常に近い過去について書いているからちょっと雰囲気が違ったが、絵の描写や絵の中に自分が入ってしまいそうな味わいなどが心に残った。
読み終わる頃、本作の中での彰之の時間は1年ほどしか進んでいなかった事に気づいて驚いた。晴子の手紙が長い時代を網羅している為ものすごい錯覚を覚えたのが印象的。
この作品の素晴らしさや味わいを的確に書けない自分がもどかしい。もどかしいと言えば、文庫版の帯も「圧倒的傑作」なんていうのだけでは済ませないで、プロなんだからもうちょっと良さが的確に伝わる書きぶにできないものか・・ブツブツ。
新リア王も早速購入。機が熟したら読もうと思う(高村作品には「いまだ!」と読むタイミングが自分の中である)。
- 感想投稿日 : 2018年12月27日
- 読了日 : 2018年12月27日
- 本棚登録日 : 2018年12月27日
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