あらゆる種類の創作活動に励む芸術家に仕事場を提供している<創作者の家>。
その家の世話をする「僕」の元に、ブラフマンはやってきた。
サンスクリット語で「謎」を意味する名前を与えられた、小さな生き物と触れ合い、見守ったひと夏の物語。
文章だけ読んでいると子犬のようにも思えるけれど、水かきを持っていたりする謎の生き物、ブラフマン。そのブラフマンとのひと夏を綴った物語です。
ともに過ごした時間は短いけれど、ブラフマンを愛おしむ僕の感情や、確かにあった絆が丁寧に書かれていて、小さな世界のささやかな話だけど心に刺さります。
こんな優しい物語の果てを、読者目線ではタイトルで既に知ってしまってはいるんですが、どうかその時が来ないように。この小さな幸せがずっと続けば良いのにと願わずにはいられません。
それでも終わりは訪れて、しかも想像とは違った形でなかなかショッキング。閉じた世界(理想の世界)から外界の物を望んでしまった時(欲望を知ってしまった時)、楽園は壊れてしまう、みたいな。楽園の追放とかそんなメタファーなのかな、とぼんやり感じました。
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冒頭で登場人物(?)の行く末を知ってしまうという点で、同作者さんの『人質の朗読会』(中公文庫)を思い出しました。
最期を知っていてこそ感じるものもありますよね。こちらも素敵なお話なのでぜひ。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
文学
- 感想投稿日 : 2023年4月2日
- 読了日 : 2023年4月2日
- 本棚登録日 : 2023年4月2日
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