今まで読んできた東野圭吾作品とは異なる異質な感じはあったが、相変わらず一瞬で世界観に引きずり込まれた。
どこにでもいるような青年、成瀬純一はふと訪れた不動産屋で事件に巻き込まれる。
そう、まさにその事故は彼の人生を一変させたのである。
金を奪おうとした犯人はたまたま不動産屋にいた客の子供が窓を開けようとしている姿に気づき、持っていた拳銃を放つ。
幼い彼女を助けようとした純一は犯人に頭部を撃たれてしまった。
次に純一が意識を取り戻した時から、タイトルである彼にとっての悪夢でしかない「変身」は始まる。
彼が助かった理由は世界初の脳移植。
少しずつ変身(人格の変容)が始まる中で、徐々に明らかになる移植の謎。
ドナーである脳の持ち主は純一を撃った直接の犯人、京極瞬介だった。
大人しく真面目な純一の意識(脳)は日に日に京極瞬介の脳に侵食され、凶暴性が増してくる。
争う純一。
彼が京極瞬介に変身してしまう前にとった最後の戦い(抵抗)は、自ら移植された脳を拳銃で撃ち、京極瞬介の意識(脳)を止めること。
それは純一としての尊厳を守ると共に、人としての活動(生)を自ら止める。
※最大の問題は、脳片という小さな塊にすぎないにも拘らず、京極が生き続けたということだった。心臓死の判定がなされ、脳波は停止したが、彼は生きていたのである。たしかに脳細胞のひとつひとつがすべて死んだわけではなかったし、だからこそ移植も可能だったのだ。
すると人間に死の判定などできないのではないか。我々が知りうるかぎりの生命反応がすべて消えたとしても、人間は密かに、全く想像もしない形で生きているかもしれないのだ。
これが我々の宿題、おそらく永遠に解決しない宿題である。
実に重いテーマだと思う。
それ故に、東野圭吾作品を読んだ後に得られる読後感とは全く違った印象を残した。
読書によって、評価は分かれるのだろう。
説明
世界初の脳移植手術を受けた平凡な男を待ちうけていた過酷な運命の悪戯!
脳移植を受けた男の自己崩壊の悲劇。
平凡な青年・成瀬純一をある日突然、不慮の事故が襲った。そして彼の頭に世界初の脳移植手術が行われた。それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしょうもない。自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された悩の持主(ドナー)の正体を突き止める。
- 感想投稿日 : 2020年5月28日
- 読了日 : 2020年5月28日
- 本棚登録日 : 2019年7月21日
みんなの感想をみる