チャヴ 弱者を敵視する社会

  • 海と月社 (2017年7月20日発売)
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感想 : 45
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とても興味深かった。ただ、英国に居住しない人にはあまり関連がない内容だとは思う。
著者は労働者階級の町出身で、オックスフォード大学で学んだ20代の若者である。彼は英国では生まれながらにして階級制度が存在するため、下層の人たちに機会がないことに憤慨している。そして社会の断絶や貧富の差をひどくしたのは、サッチャー元首相による、工業と労働組合の破壊だと論じる。昔の労働者階級はスキルも誇りもあったのに、今は公営住宅に住んでいる人々はチャヴと呼ばれ蔑まれている。中流階級の人は、彼らが今の状態にあるのは怠惰が原因と考えるが、努力不足でそうなっているとは限らない。著者はブレア元首相率いるニューレイバーにも落胆している。
よくここまで調べてはっきりと書いたな、という感想である。ただ、自分が非英国人だからかもしれないが、ブレイディみかこ氏の「労働者階級の反乱」の方が、よく書かれていると思う。チャヴというタイトルはセンセーショナルだが、内容はイギリスの政治史に近い。それだけだと日本人との関連が薄いので、帯に日本でも同じことが起こる、と書いてあるが、私はそうは思わない。
10年ほど前にジェイドという女性がメディアにいて、典型的チャヴだったのを思い出した。10代で出産し、貧乏なエリアに育ち、教養のない話し方をする。私が住む街にも当然たくさんいる。上下揃いのジャージ、闘犬を連れていて、日本でいうなら不良と呼ばれる人かもしれない。イギリスの階級は本当に根深く、チャヴの家庭に生まれたら、努力で中流に属するようになるのは、ほとんど不可能である。筆者はそれを嘆いていて、彼なりの提案もあるが、社会を変えることはできないだろう。面白いのは、この本が英国外で意外なほど反響を呼んだということだ。
イギリスの社会問題に興味がある人にオススメ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年3月26日
読了日 : 2018年3月26日
本棚登録日 : 2018年3月26日

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