職業としての小説家 (Switch library)

著者 :
  • スイッチパブリッシング (2015年9月10日発売)
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本棚登録 : 2800
感想 : 377
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 全12回の村上春樹の講演を聴いているような、非常に濃密で読み応えのある、なおかつ一単語も無駄のないエッセイだった。MONKEYで既読の内容もあったが、改めて読んでも楽しめる。

 村上春樹は、言わずと知れた世界的作家だ。50の言語に翻訳されている作家なんて、世界を見渡しても、長い歴史の中でもそうそういるまい。作品に対する好き嫌いはあれど(熱狂的ファンも多い一方でアンチも多いらしい)、それは誰もが認めるところであろう。そんな人物だからこそ、多少鼻高くなってるんちゃうの?なんて思ってしまうが、氏は驚くほど謙虚だ(すぐ調子に乗る浅はかな自分が恥ずかしい。私なら「世界中どこでも好きなところに行って、いくらでも経費を使って、好きなように紀行文を書いてください」なんて依頼喜んで飛びつくわー)。
 書いているあいだの批評・助言を必ず受け止めること。自らを“天才でない”と評し、ゆえに日々フィジカルの鍛錬を欠かさないこと。これだけ売れても、自らを常にアップデートしていること。“ええかっこしい”で言っているわけではないと思う。これだけまっすぐで深い文章からは、嘘など微塵も感じない。

 感銘を受けた箇所はたくさんあるけれど、とりあえず3つ挙げておく。

・オリジナリティーとは、独自のスタイルがあることだけではない。そのスタイルを自らの力でヴァージョン・アップできること、時間の経過とともにスタンダード化され、人々の価値判断基準の一部として取り込まれることも必要だという。オリジナルを生むには努力が必要だし、心の乱れは邪魔になるのだろう。

・読書の効用を巧みにまっすぐに語ってくれていること。私自身本をよく読むようになり、人間関係は狭くなったけど世界が広がった実感があった。学校が合わない、生きづらさを抱える子どもたちが、村上春樹がこのように語ることによって読書の効用に気づいてほしいと願う。

・リック・ネルソンの『ガーデン・パーティー』の歌詞
 もし全員を楽しませられないのなら
 自分で楽しむしかないじゃないか
 無責任な言葉に惑わされないためにも大切にしたい言葉!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ・対談集
感想投稿日 : 2018年7月13日
読了日 : 2018年7月13日
本棚登録日 : 2018年7月13日

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