本からはじまる物語

著者 :
  • メディア・パル (2007年12月1日発売)
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本棚登録 : 940
感想 : 197

本にまつわる短編を18名の作家が描くアンソロジー。
本好きにとって純粋に本にまつわる話は楽しいし、読んだことのない作家の作風を知ることができるという意味でもよかった。

もとは出版取次のトーハンが発行している機関紙に掲載されたものなので、物語の舞台はほとんどが本屋である。
18編それぞれ作家の個性があらわれていて面白かったが、特に印象に残ったのは今江祥智「招き猫異譚」、いしいしんじ「サラマンダー」、山本一力「閻魔堂の虹」、大道珠貴「気が向いたらおいでね」の4編。

「招き猫異譚」は京都の小さな本屋に通う主人公と猫の話。気に入った本屋にいる、置物のように動かない猫がおすすめの本を示してくれるようになる(ような気がする)。ラスト、猫がつないだご縁に心温まる。
「サラマンダー」は、本のページを丁寧にめくる祖父の、若かりし頃のほろ苦い思い出。いしいしんじさんの作品に感じる「喪失感」が短編の中にも十分にじみ出ていて味わい深い。
「閻魔堂の虹」は、貸本屋で働く弥太郎が、女中を通じて本を借りる桔梗屋のお嬢に思いを寄せる話。返ってきた本にきれいに鏝があてられていたら好きになっちゃうよなあ、と共感。
「気が向いたらおいでね」は愛する人との距離をうまく縮められない女性の話。彼女が不倫相手と待ち合わせる本屋のコーナーには彼女の願望が現れている。両親を亡くした彼女の唯一の身内であり、彼女同様不器用な叔母がおずおずと言う「気が向いたらおいでね」の言葉が切ない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の現代小説
感想投稿日 : 2021年7月2日
読了日 : 2021年7月2日
本棚登録日 : 2021年7月2日

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