読書が好きな人でも、読書が苦手な人でも楽しめる小説。
それが伊坂幸太郎の作品だと思う。
歯切れよい気持ちの良い文体は人を選ばない。印象的なセリフ回しや映画や音楽からの多彩な引用。それにより個性際立つ登場人物たち。得意とする群像劇での各々のキャラクターへのリンクの巧みさ。どれをとっても質が高く、楽しめる。
読書は娯楽であると再認識させてくれる作家のひとりだ。
このグラスホッパーでは、暴力的な描写も度々描かれる。
登場する人物のほとんどが「殺し」に関係しており、主人公が所属する会社も「非、合法的」な存在だ。
それでも、作者が描く暴力的な描写には、不思議とグロテスクさはあまりない。殺されること=死が、かえって物語に活力を与えるような、そんな感覚さえ覚える。ひとつひとつの現象を観察するように丁寧に描くことで、逆に現実味が薄れ、リアルから解放されるような奇妙な心持だ。
ストーリーではタイトルである「バッタ」について語られる件から、いっきに加速する。
いつものように読者は裏切られ、予測不能なラストへと収束する。この作者に裏切られることは読者のカタルシスであり、一読したファンを離さない要因なのだと思う。
「神様のレシピ」という伊坂作品共通のフレーズも登場し、これまでの作品を読破してきた読み手への配慮も嬉しい。
底抜けに楽しめるエンタテインメント、とまでは言えないが、作者がこれまでとは異なる試み(筆致)で、これまでと同じような世界観を構築しようという意欲は窺える。
これまで通り、読後感は満足感に変わる優れた一品。
- 感想投稿日 : 2017年4月10日
- 読了日 : 2008年2月29日
- 本棚登録日 : 2017年4月10日
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