医療の巨大転換(パラダイム・シフト)を加速する――糖質制限食と湿潤療法のインパクト

  • 東洋経済新報社 (2013年8月23日発売)
4.14
  • (6)
  • (4)
  • (4)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 53
感想 : 7

糖質制限にめげ始めていたので、もう一度やる気を起こさせるのに十分な本だった。
糖質制限の栄養的偏り、タンパク質の摂りすぎによる腎臓への負担などを心配していたが、糖尿病患者にとってやはり糖質制限は素晴らしい療法と思えた。確かに、江部さんがおっしゃっているように、インシュリンの適正量が都度の食事でわからない、というところが一番の問題。インシュリンでうまくコントロールでき糖質を含めなんでも食べられるのは理想だけれど、現実は出来ない、ということである。合併症を起こす患者が増えているというのはその証拠ではないか。
興味深かったことは、インシュリン療法が発見されるまでは、糖質制限療法だったということ。それ以外はないので、そうであったのだろう。ところがインシュリンが発見され、それを外から補えるようになって、インシュリンを打って何でも食べるという方向になった、という点。何でも食べられるというのは、糖尿病患者にしてみれば夢のようなこと。 ところが、それでは血糖値コントロールが難しく合併症患者が増えている。悲しいといえば悲しい。
もう一点。最近の研究で、合併症が起きるのは、高血糖状態というのもあるが、むしろ血糖値の日内振れ幅の大きさが影響している、ということが分かってきた。そうなると、インシュリンを打ちすぎて低血糖になったりする場合(血糖値が高い場合ばかりでなく低い場合も)も良くないわけだ。そうなると、やはり糖質制限療法はベターだと感じる。
画期的だと騒がれたインクレチン関連薬について。製薬会社の豪華な招待研修(インクレチン関連薬に関して)に医者が大量に送り込まれたのち、この薬に対する支持の表明が大声で叫ばれ始めた、とのこと。近藤誠著の本を読んだ後だけに、不信感を感じるところである。
湿潤療法にしても、既得益をもつ過去(?)の専門医が、新療法を認めない(認めると自分の専門性の必要がなくなるから)、という点について、なんとも・・・・・情けないといえばひと言だが、彼らも必死なのか。 大手の会社に勤めていて順調にサラリーをもらってきたビジネスマンがある日突然職リストラに会うこともある昨今なので、医学界も例外ではない、というとらえ方もあるのではないかと思う。
医者が自分の利益のため、患者に不利益に動くことがあったとしたら、それは医者個人にとって良い人生、とは言えないだろう。もしその医者に良心がかけらでもあるとしたら。
とても考えさせる本。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年9月1日
本棚登録日 : 2013年9月1日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする