代償 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店 (2016年5月25日発売)
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99.9%の有罪率を誇る日本の刑事裁判。
その裁判を自分の思う方向へと誘導し、操り、そして翻弄する。
達也という人間の在り方を考えたとき、こんな人間に生きていく価値はあるのだろうか?と寿人と同じように感じ、そう感じてしまう自分に愕然とする。
幸せだった圭輔の家族に突然訪れる不幸な出来事。
その予兆は少し前から現れていたのに、まだ小学生だった圭輔にはどうすることも出来なかった。
生まれながらにして悪人はいないという性善説は、残念ながら達也には当てはまらない。
自分の手は汚さず、周囲を操り、常に自分の望み・・・他人の幸せは許せない、他人を不幸にしたい・・・を、淡々と叶えていく。
たったひとり生き残った圭輔には、子どもだからという配慮のもと、すべての事実が知らされることはなかった。
大人になってから聞かされた当時の事実に、衝撃を受けた圭輔の心情を思うと胸が痛くなる。
終盤に向けての展開には、ただただ驚かされた。
隠されていた真実、用意周到に張り巡らされた達也の思惑。
過去に光があてられたとき、ようやく見えてくる汚され傷つけられ、虐げられた人たちの辛い思いが浮かびあがってくる。
まっすぎに、自分の中に後ろ暗いものを抱えずに生きていけたら幸せだ。
けれど、100%真っ白な人間なんているのだろうか。
圭輔のどこか優柔不断で臆病な性格は、達也たち親子によって心に深く刺しこまれた楔によって形成されたものだ。
けっして爽快感が残る物語ではない。
辛く、苦しく、やりきれない痛みが、心にじわりと傷をつけていく物語だ。
それでも、読んでよかったと思わせてくれた物語だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2017年4月11日
読了日 : 2017年4月11日
本棚登録日 : 2017年4月11日

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