「かつてテロリストだった男が、20年ぶりに出所した週末。
正しいと信じた闘いが決定的に損なったものを、人はどのように償いうるのか?」
ーーという裏表紙の文言に惹かれて読み始めたが、予想は裏切られた。
私は、「かつて命をかけて信じたことによって自分の人生のあまりに長い時間を失い、その過程で、かつて信じたことへの疑念をもつに至った男の葛藤と救済の物語」なのだろうと思ってしまったのだが、全く違った。
私が勝手に期待しただけなので、作品には罪はないのだが、主題の回収の仕方も「え!それ?」という終盤だったので…星2つ。
彼の出所が突然決まり、ブラコンが過ぎる姉によって集められたかつての友人達。それぞれの思索が交錯しながら、物語はすすむ。
登場人物の一人である元テロリストの内省の深まりはなく、どちらかというと生きるのが不器用な人間の表層に見える。
登場人物達がかつての仲間との再会に戸惑ったり、予想外な出会いになったり、「この週末」を非日常として捉えいつもの日常に思いを馳せたりするくだりは、ある程度年齢を重ねた者には共感とともにいろいろ考えさせられる時間ではあった。
美しい表現や、読み応えのある情景の展開は所々あるので、文学作品としては良質、かな。ただ数人の人物造形はなんだかご都合主義というか違和感があった。主題との距離感も、法律家だからなのだろうか?微妙な印象。(もちろんそういう距離感で素晴らしい文学作品もあるのだけれど。ちょっと違う)
ちなみに、テロリスト本人も、元仲間達のほとんども高学歴で裕福な家庭の子息。先日読んだ『テロール教授の怪しい授業』を裏付けるようで、フィクションなのに妙にそこだけはリアルを感じた。
別作品では『朗読者』しか読んでないが、あの作品は恋愛作品のようで、下敷きとしてアウシュビッツが出てくる。匂わせるだけでなく、著者が正面から戦争やテロリズム、暴力や正義について書いている作品があるのなら読んでみたい。
- 感想投稿日 : 2020年9月13日
- 読了日 : 2020年9月13日
- 本棚登録日 : 2020年9月13日
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