1973年のピンボール (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2004年11月15日発売)
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本棚登録 : 796
感想 : 48
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「感想」という感想を書くのは非常に難しく捉えどころのない作品なのだが、『風の歌を聴け』と似て非なる僕の静寂や鼠の決意が美しい言葉で断片的かつ重層的に綴られており、初期の村上春樹の「らしさ」が匂い立つように感じた。
『スペースシップ』と交わす最期の会話では、終始抽象的な文体にも関わらず涙が出た。僕と彼女の関係も心情表現も情景描写もあまり想像できないまま読み進めてしまったのに、それでも出所の分からない苦しさというか、理由も掴めないのに胸が締め付けられるような。双子、ジェイズ・バー、翻訳、猫、耳掃除、そしてピンボール。もう一度読むことがあれば、もしくはこれを含めた村上春樹の初期三部作について語らう機会に恵まれれば、時間の許す限り全てのファクターにおいて一つ一つ噛み砕き解釈を加えるという形で丁寧に読み解いていきたいが、今はただこの独特な雰囲気に浸るしかあるまいと思う。

「人間てのはね、驚くほど不器用にできてる。あんたが考えてるよりずっとね」
鼠は瓶に残っていたビールをグラスに空け、一息で飲み干した。「迷ってるんだ」
ジェイは何度か頷いた。
「決めかねてる」
「そんな気がしてたよ」

「またいつか会おう」
「今度会った時は見分けがつかないかもしれないぜ」
「匂いでわかるさ」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年12月29日
読了日 : 2020年12月29日
本棚登録日 : 2020年12月29日

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