オトナの片思い (ハルキ文庫 い 12-1)

  • 角川春樹事務所 (2009年5月1日発売)
3.15
  • (10)
  • (33)
  • (97)
  • (22)
  • (3)
本棚登録 : 673
感想 : 67
3

2016/03/08読了

久々の更新

恋愛を題材にしたオムニバス形式の作品は、その作家の男女や人生観、生活感、倫理観、そして創造と想像の奥行きを観察することができる一番の方法だと思う。

----

当たり前のことだが、女性だって年を取る。
いつまでも子供の様に輝けるわけではないし、身を固めたならば新しい恋は公にはするべきではない。
しかしふと恋に落ちることもあるだろう。
もしくは、大切にしてあった恋
一方は終わっても他方はそうではなく
両思いの一方が切れてしまった瞬間とは、片思いになるのだろうか。
『オトナ』の片思いとは、不憫だ。届かない、救われないことはわかっていても、なぜ人は恋をするのか。

恋愛描写に強い作者陣が描く片思いは、鮮やかで、痛みがある。
ゆえに、幸せの存在を考えてしまうのかもしれない。

余談だが、作中に何度か出てくる「食事」の風景
恋愛と食事は切り離せないものだ。人間の三大欲求に深く関連する なんて、よく言うもの。

『フィンガーボウル』石田衣良
深いつながりは持たない
ベッドにはいかない
でも食事はする
そこに快感があるのならば、食事はセックスの代償行為だ。

『リリー』栗田有起
恋をすると不調になる。気持ちに身体が追い付かない。
リリーだなんてかわいい言葉を使えるのは女子高生ならではの特権だ。
でも心情だけなら大人だって「リリー」が許されるのかもしれない。

『からし』伊藤たかみ
人のこだわり、ゆずれないところ、妥協するところ
共通の何かがなければ生活は成り立たないのかもしれない。

『やさしい背中』山田あかね
女性は異性のたくましい部分に目が行く。
背中、腕、指、足、首筋。。。
そこからの視覚→相手の人柄などを観察する。
ふとした時に恋をするとはたぶんこういうところから。
"実らない方が甘美な恋もある。そっとしておくのがいい思いもある。"(P78)

『Enak!』三崎亜記
これはファンタジー色が強かった。
「影無き者」ってなんだろう。たぶん、何かの比喩なんだろうな。世捨て人とか?影は職 影は自分の陰の部分 影は過去、お金、家庭、何とでもいいかえることができそう。
何もないものが何かを生み出す過程。

『小さな誇り』大島真寿美
誇りという部分はどこにあったのだろうか。
ぬるいけれども心地いい関係によりそっていたい女。

『ゆっくりさよなら』大崎知仁
いつかこんな時が来るのだろうか。
できればあってほしくないがこんなことはよくあるらしい
いわば日常だ。だがそれが一番響く。
この本で一番印象に残るエピソードだ。
両片思いが夫婦になり、そして片思いになる、切なさの果てに。

『鋳物の鍋』橋本紡
なんだか日常をなぞっただけの話だった...
正直微妙だったが、反町スペシャルは飲んでみたい。

『他人の島』井上荒野
これも正直いまいち。おばちゃんは面倒な生き物だ。

『真心』佐藤正午
若いお兄さんの、恋愛というよりも縁の話かと。
出前を頼んで事故にあった、というので大きなストーリーができているから、恋物語は蛇足だと思った。
作者が著者なのだろうか、主人公がやけに上から目線で好きになれなかった。もったいない。

『わか葉の恋』角田光代
大人になることを認めていても
自身の中で肯定していても心のどこかであきらめられないところがまだある。
その中で、見かけるだけでもいい と心浮立つことがある。
まさしく大人の片思いとはそういうことなのだと。
恋をすると苦しくなる。昔とは違っても、わくわくする気持ちがある。
大人になった時の自分は何を思う

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 恋愛・青春
感想投稿日 : 2016年7月20日
読了日 : 2017年5月2日
本棚登録日 : 2016年7月19日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする