突然ノックの音が (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社 (2015年2月27日発売)
3.52
  • (8)
  • (23)
  • (26)
  • (3)
  • (2)
本棚登録 : 399
感想 : 39
4

非日常的なもの、心理的なもの、さまざまなテイストの掌サイズの短編集。アイロニカルで結構ドライで、読んだ後、心がちょっとちくっと痛くなるような。
たとえば「嘘の国」。私も結構ウソ付きなので、こんな国があったらほとんど恐怖。母を病気にしたりしたことあったし……。非常に身につまされたが、こんな形でウソを表現したもの見たことなかったので、かなり驚いたし面白かった。
「チーザス・クライスト」。すごく短いのだが、どこに連れてかれるのかわからない流れるような展開が新鮮で何度か読み返した。
「チクッ」。こういう痛そうなのは生理的に苦手なんだけど、ファスナーを開けてくるみ込まれることを想像したらまたドキドキして。
「創作」。この短編の中に四つの物語が入っている。これもくるみ込まれてる。
「色を選べ」。これは辛い。寓話化して書いているだけに普遍的なことだとわかるから。
「ポケットにはなにがある?」。これは詩。
「バッド・カルマ」。怖い。絶対フィクションだと思いつつ、妙にリアリティがある。
「プードル」。ちょっと泣ける。泣いていいのかわからないけど。
「一発」。これもしんどいな。イスラエルの人ってすごう優秀って聞くけど、これが今のアメリカ?
「カプセルトイ」。テロと癌が隣り合わせなのはこの国特有のことかもしれないけど、何か普遍性を感じるのはなぜ?
「金魚」。「嘘の国」に次いで好き。ところで結構ロシア人、ウォッカが出てくるのが少し不思議だったけど、ソ連崩壊後にイスラエルに移ってきたロシア人がいたことをこの本で知った。
「ジョゼフ」。映画の一場面のような緊張感のある一編。
「喪の食事」。三番目に好き。これも映像化するといいのに。ほっとする。
「グアバ」。そうか、グアバに生まれ変わるんだ。思ってもみなかった。
作者の経歴を意識しなくても面白く読めると思うが、イスラエルという国の事情やテロと隣り合わせで生きるということの心理やさまざまな移民のことを知って読むとよりいっそう面白い気がする。そういう「特殊な」背景に基づいた話でありながら、なぜか普遍性を帯びている。日本に日常的な自爆テロはないかもしれないけれど、何かしら似たような社会の切迫感や閉塞感はあって、そういう中で生きていくことへの漠とした不安は共通なのかもしれない。もちろん、自爆テロとはレベルが違うだろうけれども、知らない国の知らない話ではなく、自分ごととして感じることができるのだ、この本に収められた話は。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: イスラエル
感想投稿日 : 2019年8月17日
読了日 : 2019年8月17日
本棚登録日 : 2019年8月17日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする