ひとりの女性が絞殺される。その直後、「ワタライケンヤ」と名乗る謎の男性が彼女の家族や知人の元を訪ねて話を聞いて回る。この男性のキャラクターが秀逸。自分バカなんで、学も知識もないしなんもわからないんで、と言いながらオブラートも遠慮もなく思ったことを口にし、それが結果的に相手をじりじりと追い詰めていく。新しい尋問スタイル。むしろ本人も意図していない。どうにもならないなんてことないじゃん。死にたいなんて言うけど嘘じゃん。若いし、頭悪いし、立場もないし、自分より下に見ていたワタライケンヤの予想外の的を射た口撃に、徐々にあたふたしていく登場人物たちの姿は、かなり痛快。愚かだなあ、フフフ。でも一方、自分自身が日常生活でよく言ってしまう言い訳と似た発言を繰り返す人物もいて、そういうときはワタライケンヤの台詞が彼らを貫通してわたしにもグサグサ突き刺さって、目を逸らしたくなった。
内容云々よりも(とか言ったら作者に失礼だけど)とにかくワタライケンヤというキャラクターが立っている作品なので、最後に印象的な台詞をいくつか。
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p.22
「それに身許っても、別にないンすよ身許。肩書きねえつうか。俺、仕事してねーし。してねえっつうか、出来ねえつうか、コンビニとかでバイトしても解雇(クビ)になるっつーか」
p.255
「あのさ、俺、今まで結構何人もにアサミのこと聞き回って来た訳。みんなテキトーなんだよな。関わり深かった奴も浅かった奴も、誰もアサミのこと能く知らねーの。自分のことばっか喋るんだよ。尋いてねーつうの」
p.331
「だから俺は、アサミのことが知りたくなった。でも他の連中はさ、みんなぐずぐず不平ばっか言って、気分が世界一不幸だみてえなことばっか言って、それでもみんな死ぬとは言わねーの。そんな我慢出来ねえ程不幸なら、死ねばいいじゃんて思うって」
p.396
「俺が話尋き回った連中は、みんな死ねばいいのにって言ったら、嫌だって言ったんすよ。きっとそれが普通なんすよ。だって、みんな生きたいに決まってるじゃないすか。未練ありますよ。未練たらたらっすよ。みんな、満ち足りてねーもん。ああだこうだ理屈捏ねて、自分は不幸だ自分は不幸だって言うじゃないすか。それが当たり前なんすよ。人間って、みんなダメで、屑で、それでも生きてるもんすよ。あんたの言う通り生きるために生きてるんすから、死にたくなんかねーよ。」
- 感想投稿日 : 2021年12月8日
- 読了日 : 2021年12月8日
- 本棚登録日 : 2021年12月6日
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