最初は、主人公の平群広成のキャラが薄すぎて入り込めず。率直な物言いが買われて抜擢されたはずなのに、上司の前でいいよどみ、まじめな性格なのか、その後も平板なものいいで、目立たず。大使のしたたかさ、秦朝元の軋轢を生みながらも事を前に進める才気などのほうが目をひく。ただ、物語が進むにつれ、特に、蘇州から出港したあたりから重い責任感を帯び。そこから漂流して、林邑、そこからふたたび蘇州、長安、洛陽、登州、渤海王府から日本に戻るまではまさに切った貼った、考えに考え抜いて、策をめぐらし、要路にわたりをつけ、なんとか帰ってくるまでには、手に汗にぎる。林邑で知らずにおかした誤りの一手が、直接ではないにせよ乗員100名余の命を奪ってしまった苦さをかかえつつも。そして愁眉は阿部仲麻呂の造形。あまのはら・・・のひたすら望郷をのぞむひよわなイメージがあったが、それをくつがえす、傲慢、力がある、そしてあくなき銭への欲求。ちょっと前に墓誌銘の発見で話題になった井真成の登場。吉備真備の冷徹さ、しかし持ち帰った書籍と学識が残した大きな足跡。周囲に登場する人物も魅力的で知りたくなってくる。/病床に伏せながら、土産を問われ、目の覚めるような春画を一巻買い求めてほしいと言う山上憶良/世の中には、話しかけないことのほうが、礼儀にかなっている場合もあるのである。(揚州組と新揚州組の軋轢)/「功も過もわれ一人にあり、我にしたがいたまえ」(平群広成)/ここでも無知は死を意味するのだ(林邑での襲撃を受けて)/あなたは、死んだ百名近い日本の遣唐使たちに対する責任があるとともに、私たちにも応分の責任があるはずだ。それを、勝手に死のうとは、身勝手にもほどがある。(安東)/
- 感想投稿日 : 2015年1月17日
- 読了日 : 2016年1月11日
- 本棚登録日 : 2015年1月17日
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