世界から猫が消えたなら (小学館文庫 か 13-1)

著者 :
  • 小学館 (2014年9月18日発売)
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「明日あなたは死にます」と悪魔に言われた主人公。
しかし、「何かをこの世界から一つ消すたびに一日寿命を延ばす」という契約を持ちかけられる……。

小学館文庫の本書ページによると、70万部以上売れているそうだ。
ネットでは、高い評価もたくさん見られる。
しかし、はっきり言って私は1つもいいところを見つけられなかった。
そう言うからにはきちんと理由を述べるべきだと思うのだが、長くなるため、箇条書きで書く。

①設定が甘い・強引・矛盾・説明不足
・悪魔に「明日あなたは死にます」と言われたのが月曜日。
それから何かを消すたびに一日だけ寿命が延びる。
主人公が消したものは全部で3つ。
なぜお前は日曜まで生きているんだ。

・悪魔はともかく、勝負を買った神様は人間の世界をめちゃくちゃにして何をしたいのか。

・別れた理由が思い当たらない→ブエノスアイレスでの一件。
十分思い当たる節があるように見受けられる。

・「トムさんといっても日本人だ。」
どうしてトムという名前なのか?
理由を説明しないなら、普通の日本人名でいいのではないか。
つまらないところでつっかかりを作らないでほしい。

・「電話ですら、もう僕らをつなぐことができなかった」
  →「あのとき(中略)電話を持っていれば」
飛行機の中という「瞬間」での電話の必要性を言っているのなら、その記述を。
個人的には、関係の改善を「if」のしかも「モノ」に頼っている時点で、その望みは薄かったと思う。
ロマンチックな事を言っているかもしれないが、気に食わない主人公だ。

・映画を消すことを決めた段階で元カノと映画を見る約束を思い出しているが、その前の消そうかどうか迷っている段階で思い出す方が自然ではないか。
前者だと約束などほとんど気にしてないように感じられてしまう。

・母のことを少しも覚えておらず、自分の事には興味もないといった風の猫の突然の忠誠心に違和感。
本当は最初から忠誠心があるというならその描写が必要。
 
・猫には愛がない?
猫小説だと思って購入したのに。
作者はおそらく猫が好きじゃない。

・「母さんは自分が旅に行きたいわけじゃなかった」
それに気づく要素がどこにあったのか。第六感か。

・結局どうして父に手紙を書く気になったのかがわからない。

②盛り込みすぎ
・音楽や映画などの現実の作品をたくさん出してくるが、「映画プロデューサーだからこんなに知ってるんだ。オシャレだろ?」という考えが透けて見える。
現実の作品を挙げることを否定してるわけではない。
既存の作品を受けて、新たな世界を構築できるならアリだ。
しかし、既存の作品のイメージをそのまま使って、良さげな雰囲気を醸し出そうとするのは反則だと思う。
そもそも、各作品と本書との関連が薄いので浮いている。

・世界から何かを消す時、それに対する主人公の思いが語られるが、消してしまった後の物語に影響してこない。
ただでさえ日によって関わるものが変わって長編が連作短編のように感じられるのに、つながりがないためにぶつ切りの短編のようだ。
テーマをたくさん詰め込みすぎて扱い切れていない。

・映画の名セリフの引用シーン。
「人生で起こることは、すべてショーの中でも起こる」
 →「起こりえない!事実は映画よりも奇なのだ!」
ダメなわけじゃないが、映画のセリフを詩人の言葉(事実は小説よりも奇なり)で否定しちゃうのか!というところ。
映画のセリフを映画のセリフで否定できるならおもしろいのかもしれないが。

・既存作品のセリフ以外にも、狙ったような哲学的な言葉が羅列されているが、総じて重みがない。連発しすぎで、文脈との関連性も薄い。
本書のホームページでは、角田光代さんが「小説だが、これはむしろ哲学書なのではないかと思えてくる。」というコメントを寄せているが、これは皮肉なのではないだろうか。

③文章が稚拙
・会話文も地の文も、語り口がライトノベルのよう。
・基本的に一人称で進められる地の文が、突然読者への問いかけ口調になるのは不自然。
・表現方法の一つと言われればそれまでだが、ビックリマークを横に3つ並べて使うのはみっともないと思う。
・「フーカフーカ」は「ふかふか」ではだめなのだろうか。作者の感じ方としてはアリだと思うが、既存のよく似た表現があるなら、わかりやすい方を使った方がいいとも思う。
・大きく息を吸い込んだままの死。
 吐き出せ。

ここまで書いておいて、という感じはするが、著者の川村さんは映画プロデューサーで、「電車男」、「告白」、「モテキ」、「おおかみこどもの雨と雪」などに関わってきたそうだ。
有名な作品、私の好きな映画作品も多い。
しかし、小説は本作が初めてだという。
ぜひ映画プロデューサーの道で頑張ってほしい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年10月7日
読了日 : 2015年2月24日
本棚登録日 : 2020年10月7日

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