10年以上かかって、「シッダールタ」「メルヒェン」「知と愛」「荒野のおおかみ」「デミアン」「ガラス玉演義」と読んでからこの「車輪の下」を読んだ。
自然を愛する少年の素朴で繊細な心が、大人たちの社会の機構の粗さによって実に無遠慮に、無惨に、傷つけられていく。舞台となるのは全て実際にヘッセが育った場所であり、主人公の辿る軌跡はヘッセ本人のそれと同じで、限りなく自伝に近い、真に迫ったところのある作品のようだ。
私自身はヘッセの作品を読み進めていく中で彼の特有の繊細さ、優しさを特徴と感じ、人として弱さを強さへと昇華させていく生き様に、自分の人生にも何かしらの励ましと、ヒントをもらってきたように思ってきた。
けれど、この作品を読んで一番強く心に残るのは、ヘッセ本人のとてつもない「強さ」であった。ここに描かれているのは、限りなく事実に近いながらも、ヘッセ自身は主人公と同じようにならなかった。むしろ、全てを克服し、青年となったヘッセの、少年ヘッセへの弔いのような性格をしているのではないかと思う。
多くの人はその鈍感さによってやり過ごしてしまう、この社会にありふれた厚顔さ、粗雑さによって傷つけられた繊細な少年は、その先で多くの人が太刀打ちしない政府や社会を敵に回してなお自らの平和主義を貫き、人生を全うしている。その強靭さの出発点がここに記されていると思った。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2016年12月31日
- 読了日 : 2016年12月29日
- 本棚登録日 : 2016年12月31日
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