多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2015年4月22日発売)
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坂井豊貴(1975年~)氏は、早大商学部卒、神戸大学経済学修士課程修了の経済学者。専門は社会的選択理論、マーケットデザイン、メカニズムデザイン。慶大経済学部教授。
本書は、「多数決ほど、その機能を疑われないまま社会で使われ、しかも結果が重大な影響を及ぼす仕組みは、他になかなかない。とりわけ、議員や首長など代表を選出する選挙で多数決を使うのは、乱暴というより無謀ではないだろうか」と言う著者が、異なる多数の意思を一つに集約する様々な方法を分析する「社会的選択理論」について、具体的な数字を示しながら、わかりやすく解説したものである。
「社会的選択」は、言うまでもなく、我々日本人にとっても、国会議員や地方の首長・議会議員などの選挙において行われているが、二大政党制下で行われ(どちらが選ばれるかで政策が大きく異なる)、世界で最も影響力がある米国大統領を選ぶ選挙で起こった事象の印象が非常に強い。本書の冒頭でも取り上げられている2000年の選挙では、民主党のゴアが有利と見られながら、途中で泡沫候補のネーダーが現れ、支持層の重なるゴアの票を喰ったために、共和党のブッシュが漁夫の利を得たといわれる(「票の割れ」の問題)。また、同選挙では、選挙人選挙の得票数は、ブッシュはゴアを下回っており、記憶に新しい2016年の選挙でも、選挙人選挙の得票数では、共和党のトランプが民主党のヒラリー・クリントンを下回っていた。そうした過去の疑問もあり、また、次期の米国大統領選挙がメディアでも頻繁に取り上げられるようになったこともあって、本書を手に取った。
そして、読み終えてみると、様々な社会的選択の方法について(多数決以外にいろいろあることは経験的にある程度知ってはいたが)、数理的な分析により、その強み・弱みがかなり明確であることがわかり、同時に、それにもかかわらず、実際には、多くの選挙において多数決が採用され続けていることへの強い疑問が湧いてきた。
(日本の)政治家は、選挙で勝つと例外なく、「国民の支持を得た」と言うが、本当にそうと言えるのか。また、我々の将来の強い関心事として(コロナ禍の影響で、安倍政権において実施される可能性は低くなったが)、憲法改正のプロセス(衆議院・参議院でそれぞれ2/3以上の賛成+国民投票で過半数の賛成)がこのままでいいのか。。。
我々は、著者の問題意識の通り、社会的選択の方法について、その重要性を含めてあまりに認識がなさ過ぎ、その結果、疑問も持たずに多数決が採用されていると言わざるを得ない。民主主義の価値を重んじればこそ、それを反映させる社会的選択の方法について、もっともっと真剣に考えるべきであろう。
(2020年8月了)

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感想投稿日 : 2020年8月6日
読了日 : 2020年8月6日
本棚登録日 : 2020年6月3日

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