偽りの銃弾 (小学館文庫 コ 3-1)

  • 小学館 (2018年5月8日発売)
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感想 : 30
4

 比較的最近コーベン・ファンとなったぼくとしては、まだ数作の読み残し過去作品が残っている状況にやきもき。シリーズ作品が中途で未訳となって以来、すっかりスタイルを変えたシリアス系ミステリの単発作品が続くコーベンだが、中にはお馴染みキャラクターを語り継いだセミ・シリーズ作品や、コーベンワールド地続きと言えるような単発作品も見受けることができる。しかし、本書はそんな単発作品の中でも他のシリーズ・キャラクターは一切登場しないというかなり一作完成度に拘った作者の拘りが感じられる。

 主人公が、単独でしかも女性、というだけでも珍しいかなと思えるし、全体構成がサスペンス重視というようになっていて、多層構造の時間軸がヒロインを取り巻く仕掛けだらけのびっくり箱構造というのが、ぼくの本書に対する印象である。謎や仕掛けやミステリーとしての楽しみ、ということに拘る読者であれば、この作品は作者の中でも最大級にトリッキーな作品と言えるかもしれない。

 ヒロインの周囲に何人も事件や事故の死者が出ているという、まずもって偶然ではあり得ないような状況そのものが本書の特徴であり、その謎解きそのものが最後まで読者を引っ張る作品であるように思う。ヒロインに密接な関係のある夫と姉が、それぞれ銃殺され死んでいるという状況。さらに他の謎めいた死者たちが順を追って登場する。

 何よりも夫の死すら疑わしくなる状況がスタート後すぐに登場する。死んだはずの夫が隠しカメラに映っていたのだ。ヒロインの目の前で暴漢によって銃殺されたはずの夫が。

 以上の一見解けそうにない状況がヒロインを正常ではない状況に追い込んでゆくのだが、それでも異常の側に踏み込まずあくまで冷徹に真実を探ろうとするヒロインは、実は中東で度重なる戦闘経験を積んだ歴連の兵士なのである。彼女の経験したいくつもの理不尽な死と暴力の世界。サバイバルに長けた特殊能力の数々。クールさ。冷徹な知性。そうした彼女自身が捜索マシンであり武器であるというところが本書の特別な軸となってストーリーを引っ張ってゆくのだ。さすがコーベン・ワールド全快のエンタメ魂、と喝采を送りたい作品なのである。

 後半はページを繰る手が止まらなくなり、一気に真相に向かって雪崩れる。夫の属していた貴族一族(ついボライター・シリーズのウィルを想起する)という権力というパワーの裏に控える闇の奥へと、読者はヒロインとともに導かれてゆく。沢山の家族や親子の姿が活き活きと暮らす中で、独り真実に向けて闘うヒロインの姿が頼もしい力作アクションである。

 ちなみにネットフリックスでドラマ化(12回完結)されているようなので、メディアを変えた二度目の楽しみを求めてみようかと思っている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サスペンス
感想投稿日 : 2024年2月21日
読了日 : 2024年2月18日
本棚登録日 : 2024年2月21日

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