暴雪圏

著者 :
  • 新潮社 (2009年2月1日発売)
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本棚登録 : 457
感想 : 87

 『制服捜査』は、本当に印象に残る短編集であった。帯広の駐在所に飛ばされた元道警捜査一課のやり手刑事。道警裏金問題によって失われた権威と信頼を取り戻すため、警察は無理矢理なローテンションを現場警官たちに強いた。その影響下で思いもかけぬ道東の片田舎に追いやられ制服警官となった川久保巡査は、十勝の四季の中で稀に起こる犯罪やトラブルに対処してゆく。そのローカルな生活感や、この風土ならではの独特の事件性が目を引く作品集だった。

 本書はその川久保巡査を主人公にした初の長編作品である。大いに期待したのだが、実際の読後感はその期待感をある意味で裏切る。それというのも、川久保巡査が思ったより活躍してくれないのだ。この『暴雪圏』の主人公は、吼え猛ける風であり、降りつのる雪であり、広大な原野であり、何よりも十勝の冬である。災害小説とも取れるような最大級の嵐に見舞われた十勝の大地に沸き起こる事件の数々と、人間たちの運命の絡み合い、そうした群像小説という形にもってきたのが、この作品。

 シリーズ的な楽しみはある意味奪われた感があるものの、別の独立長編としてのインフェルノ小説的楽しみが逆に満喫できるあたりが、曲者である。雪に閉ざされたペンション人質篭城事件などは、まるで別の小説のように思えるのだが、こういう風にまとめずに、できればモジュラー型ミステリーの楽しみのまま、川久保巡査にもっと活躍して頂きたかったというのが、わがままな読者としてのないものねだり。

 それにしても除雪車の出動順序によって道路が開通するという設定のあたりは北海道小説としては楽しいものがある。おかげで、ラストシーンは川久保巡査の西部劇みたいな活躍のシーンが用意されている。さすがに北海道開拓時代のガンマン小説(ぼくは勝手に蝦夷地ウエスタンと名づけているが)を書いている作家である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 警察小説
感想投稿日 : 2012年6月24日
読了日 : 2009年3月12日
本棚登録日 : 2012年6月24日

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