ノーベル賞作家トーマス・マンの初期短篇を17篇収録。芸術と凡俗の対立や狭間を描く、清新で峻厳な作風が光る。
予言者や神童、障害者やアル中など、常識的な生き方や俗世間から離れたアウトサイダーの姿を描く作品が多い。
<幻滅>では人生の始めと終わりを意識させるある種の達観をみせる。
<道化者>は世間と距離をおいた人物の独白。例えていえば「頭のいいニートが恋をしたら」といった内容で、自尊心と幸福について考えさせられる、とても現代的なテーマ。
<トリスタン>はトリスタンとイゾルデの伝説になぞらえて、芸術と凡俗、恋愛と結婚を対比させる完成度の高い小品。
<小フリイデマン氏>の心痛な結末、<幸福への意志>の清らかな愛が、それぞれに深く心にしみ入る。
<ルイスヒェン><ある幸福>はそれぞれ、裏切られた配偶者の心理が繊細に描かれている。結末が真逆なのも興味をひくところ。
<神の剣>は青年の純粋さが鮮烈で、本書で最も強いインパクトを残す作品。
1929年にマンがノーベル文学賞を受賞した際には26歳のときに書いた『ブッデンブローク家の人々』が受賞理由として挙げられたそうで、本書は初期作品群とはいえ、早いうちからその天才の程をみせている短篇集だといえる。映像的にも印象深い作品が多く、折を見て再読したい一冊だった。
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- 感想投稿日 : 2023年4月26日
- 読了日 : 2023年4月24日
- 本棚登録日 : 2023年3月9日
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