シングルマザーの珊瑚が娘・雪を抱えて、周りの人間に助けられながら惣菜カフェを開店し、日々の生活を営む。
淡々とした文章の中、くららさんの透明で柔らかい空気が物語に温かさを与えている。あぁ、こういう言い方もあるのかと、彼女の感性が素敵だと思った。
梨木さんの描くおばあさんは、いずれもそういう空気で「西の魔女が死んだ」のお祖母さんを思い出す。
涙する描写はあるが、自分や雪の事でさえも、あまり心を動かしている様には見えない珊瑚。
でもネグレクトを受け、一人で生き抜く必要があると、少しの事では心が揺らがなくなるのだろうか。
それが何に対しても無感動に見えて、物語の主人公なのに浮いているように見えた。
雪の夜泣きが酷く疲れ果て、口を抑え部屋に置き去りにしてしまった珊瑚。虐待だと感じた、けれど疲れ果てて自分を責める気力がない。泣きながら初めて自分の名前を読んだ雪をいじらしくも憎らしいと思ってしまった、母親ならば誰でも経験する苦々しい感覚。
ようやく人間らしく、母親らしく戦っている姿に見えた。そして、自分に重ね合わせて読んでしまった。
今日大きな声で怒鳴ってしまった息子へ謝っても足りないから、いっぱい抱き締めたくなった。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
図書館
- 感想投稿日 : 2020年11月10日
- 読了日 : 2020年11月10日
- 本棚登録日 : 2019年11月13日
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