民俗学の本をまとめて読んでいると、南方熊楠の名前は必ずと言っていいほど出てくる。いろいろ調べるとよい評伝があるということで本書を読む。すごい、こんな人いたんだという感じではある。いわゆる"明治の気骨ある日本人"に括られる人なんだろうが、それを超えるスケールがある。なんというか学者というよりかは"知の怪人"という感じ。
生物と無生物の間に位置する粘菌の研究では世界的であり、一書生でありながら大英博物館に自由に出入りできる権利をなぜか持ち、18ヶ国語をたくみに使いこなし、「ネイチャー」の論文掲載の常連者。世界的なサーカス団に帯同して日本ではほぼ知られていなかった中米、キューバに逗留。かと思えば、日本に戻ってきてからは紀州、熊野に留まり世界な発見を次々と生み出していく。強烈な博覧強記でありおそらくはアスペルガーなのであろう、周りとのコンフリクトが絶えず、ついには逮捕されるが留置所で新たな粘菌を発見するという伝説をも作り出している。
その逮捕のきっかけとなったのが明治政府の神社合祀令への強烈な反対運動なのだが、これは紀州の神社にあった森林が失われることへの抵抗運動であり、日本における環境破壊運動の嚆矢であったといわれる。
熊楠は巨大なスケールの知の怪人ではあるが、家族関係では必ずしも幸福とは言えず、兄弟とは絶縁状態、溺愛していた息子も発狂に至るという禍がたびたび起こり、それが本書とタイトルにつながっていると思われる。
晩年の熊楠は在野の学者でありながら、研究所が作られ、最終的には、紀南に行幸中の昭和天皇にご進講するという栄誉に預かる。熊楠の死後も昭和天皇は彼の研究者としての素朴な人柄を懐かしんだと言う。
いやあ、本当にこんな人、いたんだー、という感じ。
そして、遠くからその様を見ていたかったな、という感じ(笑)すごい。
- 感想投稿日 : 2015年3月28日
- 読了日 : 2015年3月25日
- 本棚登録日 : 2015年3月28日
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