長女たち

著者 :
  • 新潮社 (2014年2月21日発売)
3.71
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本棚登録 : 747
感想 : 138
4

老いた親の世話を押し付けられる中年長女たちの葛藤の物語集。話の運び方も上手いし、イライラ描写もリアルで非常に手堅い印象。

実の娘だからこそ鬱憤も醜態もさらけだして全体重でのしかかる老母たちはモンスターのようだ。そんなモンスターを長女に押しつけて恥じない他家族たち。彼らの無責任な口調と振る舞いは実にリアルで、主人公に感情移入して読むとイライラしてくる。とは言え、どっちの気持ちも分かってしまう。読んでる間、姥捨山をちらちら考えしまうくらい家族による介護の厳しさが伝わってくる小説集だった。

『墓守娘』は親子介護がもたらす地獄だけでなく、ミステリーやファンタジー要素も入っていて最後まで妙に楽しい話ではあった。だだをこねる母親を抱き起こす場面の、脆くなった骨粗鬆症の骨のうえに美食で肥えた肉のついた体を持ち上げる云々という描写には、一言もコンチクショウとは書かれていないものの、主人公の心の叫びが滲みでていて思わず笑ってしまった。流石の描写力だと思った。あと、出てきた瞬間から詐欺師丸出し男だった新堂は、話にスリルを加えつつ最後には完璧に成敗されるので、介護疲れした主人公と、腹立たしい描写によって鬱憤がたまった読者の気分を晴らせてくれて大変良かった。在宅介護の厳しさを伝えつつも、しっかりエンターテイメント要素もある良作だ。

『ミッション』仕事に生きているはずなのに孤独死した父親への罪悪感に苦しめられる長女のお話。ミスリードが上手くてほぼホラー小説だった。文明国による途上国への人道支援は余計なお世話かもしれないという視点は鋭い。延命治療の是非も。
生物としての人間は40代以降は余生という記事も読んだことがあるし、今でもぽっくり寺に参拝する老人は多い。日本には間引きや姥捨の過去もあり、そもそも日本家屋は長生きする人間用には作られていないという話もあるのだから、昔の日本もこんなだったかもしれない。
ポックリ逝けて、介護もなくて、死んだらご先祖様と共に神様なると信じられるだなんて素晴らしいとすら思ってしまった。
ただ、やはりどうしても死にたくないのが人情である。長生きを是とすればこそ介護も必然的についてくるものだという当たり前の因果を見せられてあれこれ考えこんでしまった。
あと、家事全般を配偶者に依存し続けた男の末路をこんな風に描くのもなかなかすごいなと思った。大音量でテレビをつけたままボロを着て灰色に腐る爺さん。想像するだけで悲惨である。でも、ドキュメンタリー映画『ボケますからよろしくお願いします』では痴呆症のお婆さんの代わりにヨレヨレのお爺さんがうどんを煮ていた。『ミッション』の爺さんは単にやる気がなかっただけと思うのだが、親子だからこそ孤独死なんかされたら一生割り切れないのも、またよく分かるからやるせない。

『ファーストレディ』母子共依存の地獄。糖尿病なのに一心不乱にスイーツを食べ続けるのは自傷行為だろう。そうやって自らを傷つける妻を娘に丸投げして、娘を妻の代わりに利用して、良い人の顔つきのまま趣味や仕事で成功をつかむ男と、母ゆずりの美貌と父ゆずりの頭脳ゆえにチヤホヤ育てられ何も背負おうとせず「母さんの病気は自業自得だろ。死ぬのも自己責任」などと平気で言えるネオリベ現代人な息子が普通に怖い。流石USA留学。こやつらが成敗されるためにも、娘が逃げたあともツイーツ婆さんには執念深くモンスターらしく生きてほしいと思ってしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年5月19日
読了日 : 2023年5月19日
本棚登録日 : 2023年5月18日

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