怒りの方法 (岩波新書 新赤版 890)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004308904

作品紹介・あらすじ

うまく怒れないという悩みは意外に多い。だが、怒りは、生きる力にも、人間関係を変えていくきっかけにもなる。どうすれば、怒りの感情を効果的に相手に伝えられるのか。社会への怒りは、どう表現すればいいのか。怒り上手を自認する著者が、怒りを封じ込めようとする日本社会の歪みを指摘しながら、怒りの素を取り除く方法を伝授する。

感想・レビュー・書評

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  • おすすめ。
    しかしこの本が書かれた2004年からのわずか10年でこの「怒りの技法」の多くが無力化されていて愕然とする。相手の人格を認め、相手の自尊心に訴えかけることが、今ほど効力を失っている時代もなかっただろう。差別や排除と戦うことは、まず互いに知ることである。しかし無知であること、知ろうと努力しないことがもはや恥とされないこの時代どんな戦い方があるのか、と呆然とする。

    しかしそれって以前からずっと準備されていたもので、今になって急に起こってきたものではないこともこの本からわかる。黒いシール事件や三国人発言など政治家として決して許されない言動を繰り返してきたごろつき政治家が老齢で引退するまで政治の世界にいることを積極的に支持してきたのは国民であり首都の都民だったわけだから。

    とはいえ、やはりここ10年の動きはやはり尋常ではないように思う。それまで匿名の世界にとどまっていた差別的な言説が社会的な背景の明らかな人から公然と発せられるようになったと筆者が述べているが、わたしも2005年に1年間日本を離れて帰ったときに同じことを肌で感じた。その傾向は今も加速度を増しとどまるところを知らないように思う。

  •  ブックカバーには,次のように書かれています。

     うまく怒れないという悩みは意外に多い。だが,怒りは,
     生きる力にも,人間関係を変えていくきっかけにもなる。
     どうすれば,怒りの感情を効果的に相手に伝えられるのか。
     社会への怒りは,どう表現すればいいのか。怒り上手を自
     認する著者が,怒りを封じ込めようとする日本社会の歪み
     を指摘しながら,怒りの素を取り除く方法を伝授する。

     辛淑玉さんは以前福山市に講演に来られ,その時に講演を聞いたこともあり,親近感を持っています。
     また,前回講演を聞いた後にメールをお送りしたら,早速レスをしていただ来ました。それだけに,辛さんの話には関心がありました。
     この本はたまたま本屋で見つけたものです。辛さんは女性であること,朝鮮人であることにまつわる差別や不適切な対応などを中心に「怒り」のことを書かれています。
     私は,読みながら精神障害を持つ当事者に対する差別のことを考えていました。ソーシャルワークの背景には本人の力ではどうにもならないことに対する「怒り」が必要であると思います。その怒りをどのように表現するのかということについて非常に分かりやすく書かれています。
     「怒り」の表現については,アサーティブとは書かれていませんが,まさに同じ方法ですね。ソーシャルワーカーとしても,怒りの方法を知っておくことが重要であると再確認した本です。

  • ふむ

  • 個人や社会に対しての怒りをどう表現するかが書かれている。特に差別に関する話が多い。この本の装丁の色に、読後、納得感をもった。

  • この本は本当にすごい。「はじめに」を読むとすぐに分かる。なかなか言葉に表し難いことや感情との向き合い方を学べる。唸らされる。学校や仕事や家庭やそれ以外のそれぞれの場所で闘いあるだろう(もちろん無い方が良いとの前提で)。闘うべきところでは闘わなければならない。戦うのではなく、闘うこと。闘い方の実験と学習を繰り返して生きたい。

  • 怒りをきちんと表現できることが、人間性復活のために必要だとつくづく思い知りました。
    キレるのでなく、怒る、こと、
    色々納得!

  • 2016.9.13
    印象深かったのは、怒りと自己肯定感の関係。自己肯定感が高ければ、すなわち自分が正しいと、自分に自信を持っていれば、自分の怒りは外に向くが、逆に自己肯定感が低ければその怒りは自分に向いてしまい、絶望に変わる。怒ることができるかどうかが問題ではなく、自己肯定感を持てるかどうかが問題という、また基本的な心理的自立の問題になってしまった。逆を言えば絶望しまくっている人には怒る素養があるとも言える。コミュニケーション能力が必要と言われるが、コミュニケーションにも色々ある。それはその目的によっても、また相手との関係性によってもである。私は怒りというコミュニケーションは、それまでの関係の深さをぐっと推し進めるものではないかと思った。しかしそう感じている反面、なぜそうなのかが自分でもピンとこない。やっぱりどこかで、人に怒ることはいけないことで、いや自分が怖いだけなのだろうか。やはり自分が正しい時に私は怒る、そして自分が間違っている時には怒らない、というか怒れない。私はわがままな人間で、自分が間違っていると分かりながらも、相手から上からこられると頭にきてしまう、しかし自分が間違いで相手が正しいことを考えると、何も言えず、ただ黙る結果となり、ストレスを溜め込んでしまう。逆にこれ以外の面で言えば、怒ることは、もしくは叱ることはできているような気もしている。自分が間違っているのに怒ることを逆ギレというような気もするが、やはりそれが正しいとは思えず、それができるようになるための努力というのもどこか違う気もする。自分が正しいと思う時にできるだけ相手を傷つけず適切な怒りを出せるか、これが一つの問題、自分が正しくない時、それでも相手の言い方に腹が立ってしまった時、その怒りを鎮めるべきかどうすべきかの問題、これが二つ目、そして自分は正しいのか、正しくないのか、正しいとは何かを見極める問題、これが三つ目か。ニーバーの祈りみたいになったな。神よ我に与え給へ、怒るべき時に怒れるだけの勇気を、怒るべきでない時に己を鎮める心の平静を、その二つを見分ける正しさを知ることのできる叡智を、ということか。怒りと正義の関係について、考えを進めていきたい。

  • 『怒りの方法』という主題に沿った内容がきちんと展開されていた。「社会への怒りをどう表すか」という章では社会運動についても紹介があり大変興味深い。

    自分自身の体験でも正しく怒りを伝えたときというのは、かなり自信になった経験として今でもよく覚えている。人の出方にいつも合わせていた自分は、「自分」のない存在であったように感じる。周りから抑圧を受けて元気がなかった。そんな自分が不正な手立てで宗教勧誘してきた人に「それはおかしいですよね」と言えたことは一つの「自分」を打ち立てたような気がした。

    そのような「怒り」の土台には「過去の成功体験」から生じる「自信」がなければならないということを著者が述べているのがとても印象に残った。成功体験による自信の育みがいかに大事なのかがこの点からも理解できた。

  • ふんだんな経験談をもとに怒りの表し方について少し解説している。エピソードが9割。
    官僚にはそんなことをやるとキャリアに傷がつくと言うのが効果的。
    5分間だけ気分が良くなることを10個考えて紙に貼
    っておく。
    怒るときは目標を定める、具体的に指摘する、最後に人間関係を継続する言葉を伝える、スーツは戦闘服を意味する。
    怒られたら何で怒ってるかを聞く。どうすれば良いかを聞く。

  • 「奪われてきた怒りを奪還することだ。これは、人間性を回復することでもある。」(「はじめに」より引用)

    突発的に生じることの多く、支配の難しい"怒り"の感情。どうすれば"怒り"を発散し、さらにはプラスの結果に繋げるかについて、著者の経験を交えて書かれている。


    本書を読もうと思ったのは"怒り"への関心からで、具体的には以下の2つ。

    ①「怒って良いことなんて一つもないのに、何で怒ってしまうんだろう?」という、漠然とした"怒り"への関心。

    ②父の怒りの沸点が低いためなのか、自分以外の誰かの怒りを目にすることも少なくない。「この"怒り"は相手に上手く伝わっていないな…」と客観的に思うことがよくあった。


    "感情"は、優秀とされる"理性"の対極に置かれており、二分法(男=理性的、女=感情的)によって、"感情"は女あるいは子どもの側に押しやられたという。そうして、知らず知らずに言葉を奪われてきた男。そして女も…と著者は説く。

    怒りは扱い方によってプラスにもマイナスにもなり得る。怒りの表現の仕方、それから、怒りを向けられたときの対処の仕方が様々な視点から説明される。

    個人的に、特に響いたのは以下の二つ。

    「他者に対して怒れるためには、正しいこと、良いこと、美しいこと、公平なこと、合理的なことなどについて、価値観や基準が自分の中になければならない。」(34頁)

    「『無知』との戦いは、今までのようなデモや集会をするだけでは勝てない。一部のエリートだけが学べて無知から解放されたとしても、弱者は助からない。」(157頁)

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著者プロフィール

1959年、東京都生まれ。在日コリアン三世。小中高と一貫して不登校をつづけ、かたわら6歳のときからラベルの糊付け、ヤクルト配達、新聞配達、皿洗い、パン屋のレジ、焼き肉屋、モデル……などあまたの職業を経験する。26歳のとき、人材育成コンサルタント会社「香科舎」を設立、同社代表。また盗聴法反対や石原慎太郎都知事の「三国人」発言問題など、多数の社会運動に積極的にかかわっている。ラジオやテレビなどでの発言も多い。著書に『強きを助け、弱気をくじく男たち!』(講談社)、『在日コリアンの胸のうち』(光文社)、『女が会社で』(マガジンハウス)ほか。

「2001年 『女に選ばれる男たち 男社会を変える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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