いろいろな冠がこの本にはある。
その中でも、このミステリーがすごい キング・オブ・キングス 海外部門の第1位!
過去30年間の中で。
単純に凄いなぁと思った。
30年という時間の中で、いったいどれほどの海外ミステリーが訳されて出版されてきたのか。
しかもその中で2位以下を大きく離してのぶっちぎり。
読みたい、と思った。
これの映画を観たこともある。
といっても、かなり昔の連休中に居眠りをしてしまい、目が覚めたらつけっぱなしのテレビから流れていただけで、しかもかなりの後半だったので”観た”とは言えないかもしれないが、それでもおもしろかった記憶がある。
主演はショーン・コネリーだったか。
本屋で見つけても長く買う気にはなれずにいた。決心がつかない。
上下合わせて4千円は高い。
それ以上に難解そうであった。
いつかは読んでやろうと心に決めて漫然と過ごす日々。
転機が訪れた。
あることをきっかけに某BOOKOFFで古本をまとめて買いあさったとき、見つけてしまった。
「薔薇の名前」
古本といえども上下巻で3千円。
読まないわけにはいかない。
闘いが始まった。
物語の舞台は1327年のイタリア。
主人公の見習い修道士のアドソは、師と仰ぐフランチェスコ会修道士のウィリアムに付き従い、とある僧院を訪れた。
教皇側と皇帝側の会談を成功させるためである。
しかし、そこでは「黙示録」を模したような連続殺人事件が発生しており、ウィリアムは僧院長から事件の解決を依頼される。
とにかく! 右を見ても左を見ても修道士だらけ。
舞台も僧院。
キリスト教の歴史やらうんちくやら派閥争いやらが盛りだくさん。
読みづらいったらありゃしない。
約1か月かかって読了。
宗教の話ばかりで、事件は遅々として進まない。辛い。
日本でいえば鎌倉時代。その時代に浄土真宗とか曹洞宗とかの争いをもしも外国人が読んだら、と連想すると読みづらさが分かるかなぁ。
道具立ては非常に魅力的です。
主人公のアドソとウィリアムの関係はワトソンとホームズを、いや明智小五郎と小林少年の方が近いかな。
話はこの山の中の巨大僧院の中だけで進みます。クローズドサークルのように。
そして、迷宮と化している巨大文書館の秘密。
謎の文書。
しかし、物語の内容よりも恐ろしく感じられたのは、宗教の持つ排他性と残虐性です。
異端審問会。拷問。魔女狩り。
自分たちだけを正しい側だと信じ、それと相容れない者たちを異端と断じ、平気で拷問にかけ、火あぶりにする。
ハッキリ言って連続殺人事件なんかよりこっちのほうが何百倍も恐ろしい。
物語の中で僧院長は語ります。
「――異端に関しては、別の基準をわたしはもっています。それは異端の嫌疑を受けた都市ベジエの住民をどのように扱うべきかと問われて、シトー会の修道院長アルノー・アマルリックが答えたときの、返事の中に要約されています。すなわち全員を殺せ、神はしもべを見分けられるであろう」
ウィリアムは目を伏せて、しばらく沈黙した。それから言った。「ベジエの町を攻め落としたとき、わたしたちの軍隊は貴賤も、男女も、年齢も意に介さなかったので、二万にのぼる人々が酷い刃にかかって死にました。こうして虐殺が完了すると、町は略奪され、火が放たれたのです」
「聖戦もまた一つの戦争です」
史実です。ゾッとしますね。
昔何かの本で読んだ魔女の見分け方、というのを思い出しました。
水に沈めるそうです。
それで溺れて死んだら無罪。
死ななかったら魔女として火あぶりで処刑。
疑惑を持たれた段階で、どちらにしても死亡が確定します。
針を使う方法もあるそうです。
魔女は、その身体になんらかの印があり、そこは針で刺しても痛みを感じず、血も流れないのだ、と。
ほくろでもあざでもシミでもいいのでそこに専用の針を刺します。
実はこの針には仕掛けがあって、先端を押し当てると内部に引っ込むようにできているので、当然、刺された方は痛みを感じず、出血もしません。
これで魔女確定です。
宗教って……。
素晴らしいものかもしれない。
でも、人間にはそれを正しく扱うことができない。
汚い手で恣意的に使用されると残酷な結果にしかならないのではないだろうか。
昔、誰かから聞いた言葉を思い出しました。
「便利なものほど危険である」
宗教も原発もとても便利で大きな力がある。
でも、それら便利なものを正しく扱えるのだろうか?
人間程度に。
ストーリーそっちのけでそんなことを考えさせられた読書でした。
帯にはこうある。
「全世界を熱狂させた、文学史上の事件ともいうべき問題の書」
熱狂には程遠かった。
どうやら私は世界に入らないらしい。
もう1回、映画の方を観てみようかなー。
そのほうが分かりやすい気がする。
なにはともあれ読み終えた。
やっとこれでまっちゃんからの挑戦状、いや、果たし状にとりかかれる。
「少年と犬」
泣くもんかー!!<(`^´)>
- 感想投稿日 : 2022年6月3日
- 読了日 : 2022年6月3日
- 本棚登録日 : 2022年6月3日
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