薔薇の名前〈下〉

  • 東京創元社 (1990年2月25日発売)
3.94
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本棚登録 : 2482
感想 : 179
3

いろいろな冠がこの本にはある。

その中でも、このミステリーがすごい キング・オブ・キングス 海外部門の第1位!
過去30年間の中で。

単純に凄いなぁと思った。
30年という時間の中で、いったいどれほどの海外ミステリーが訳されて出版されてきたのか。
しかもその中で2位以下を大きく離してのぶっちぎり。
 
読みたい、と思った。
これの映画を観たこともある。
といっても、かなり昔の連休中に居眠りをしてしまい、目が覚めたらつけっぱなしのテレビから流れていただけで、しかもかなりの後半だったので”観た”とは言えないかもしれないが、それでもおもしろかった記憶がある。
主演はショーン・コネリーだったか。
 
本屋で見つけても長く買う気にはなれずにいた。決心がつかない。
上下合わせて4千円は高い。
それ以上に難解そうであった。
いつかは読んでやろうと心に決めて漫然と過ごす日々。
転機が訪れた。
あることをきっかけに某BOOKOFFで古本をまとめて買いあさったとき、見つけてしまった。
「薔薇の名前」
古本といえども上下巻で3千円。
読まないわけにはいかない。
闘いが始まった。
 
物語の舞台は1327年のイタリア。
主人公の見習い修道士のアドソは、師と仰ぐフランチェスコ会修道士のウィリアムに付き従い、とある僧院を訪れた。
教皇側と皇帝側の会談を成功させるためである。
しかし、そこでは「黙示録」を模したような連続殺人事件が発生しており、ウィリアムは僧院長から事件の解決を依頼される。
 
とにかく! 右を見ても左を見ても修道士だらけ。
舞台も僧院。
キリスト教の歴史やらうんちくやら派閥争いやらが盛りだくさん。
読みづらいったらありゃしない。
約1か月かかって読了。
宗教の話ばかりで、事件は遅々として進まない。辛い。
日本でいえば鎌倉時代。その時代に浄土真宗とか曹洞宗とかの争いをもしも外国人が読んだら、と連想すると読みづらさが分かるかなぁ。
 
道具立ては非常に魅力的です。
主人公のアドソとウィリアムの関係はワトソンとホームズを、いや明智小五郎と小林少年の方が近いかな。
話はこの山の中の巨大僧院の中だけで進みます。クローズドサークルのように。
そして、迷宮と化している巨大文書館の秘密。
謎の文書。
 
しかし、物語の内容よりも恐ろしく感じられたのは、宗教の持つ排他性と残虐性です。
異端審問会。拷問。魔女狩り。
自分たちだけを正しい側だと信じ、それと相容れない者たちを異端と断じ、平気で拷問にかけ、火あぶりにする。
ハッキリ言って連続殺人事件なんかよりこっちのほうが何百倍も恐ろしい。
 
物語の中で僧院長は語ります。
「――異端に関しては、別の基準をわたしはもっています。それは異端の嫌疑を受けた都市ベジエの住民をどのように扱うべきかと問われて、シトー会の修道院長アルノー・アマルリックが答えたときの、返事の中に要約されています。すなわち全員を殺せ、神はしもべを見分けられるであろう」
 ウィリアムは目を伏せて、しばらく沈黙した。それから言った。「ベジエの町を攻め落としたとき、わたしたちの軍隊は貴賤も、男女も、年齢も意に介さなかったので、二万にのぼる人々が酷い刃にかかって死にました。こうして虐殺が完了すると、町は略奪され、火が放たれたのです」
「聖戦もまた一つの戦争です」
 
史実です。ゾッとしますね。
昔何かの本で読んだ魔女の見分け方、というのを思い出しました。
水に沈めるそうです。
それで溺れて死んだら無罪。
死ななかったら魔女として火あぶりで処刑。
疑惑を持たれた段階で、どちらにしても死亡が確定します。
針を使う方法もあるそうです。
魔女は、その身体になんらかの印があり、そこは針で刺しても痛みを感じず、血も流れないのだ、と。
ほくろでもあざでもシミでもいいのでそこに専用の針を刺します。
実はこの針には仕掛けがあって、先端を押し当てると内部に引っ込むようにできているので、当然、刺された方は痛みを感じず、出血もしません。
これで魔女確定です。
 
宗教って……。
素晴らしいものかもしれない。
でも、人間にはそれを正しく扱うことができない。
汚い手で恣意的に使用されると残酷な結果にしかならないのではないだろうか。

昔、誰かから聞いた言葉を思い出しました。
「便利なものほど危険である」
 
宗教も原発もとても便利で大きな力がある。
でも、それら便利なものを正しく扱えるのだろうか?
人間程度に。
 
ストーリーそっちのけでそんなことを考えさせられた読書でした。
 
帯にはこうある。
「全世界を熱狂させた、文学史上の事件ともいうべき問題の書」
熱狂には程遠かった。
どうやら私は世界に入らないらしい。
 
もう1回、映画の方を観てみようかなー。
そのほうが分かりやすい気がする。
 
なにはともあれ読み終えた。
やっとこれでまっちゃんからの挑戦状、いや、果たし状にとりかかれる。
「少年と犬」
泣くもんかー!!<(`^´)>

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年6月3日
読了日 : 2022年6月3日
本棚登録日 : 2022年6月3日

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コメント 6件

松子さんのコメント
2022/06/03

どんちゃん、おつかれー(^^)
すごいね、この本。わたしどんちゃんの感想で
満足です。

ふふ、勝負の時がきたねっ!
ルールは覚えてる?
泣きそうになっても、笑える漫画やおもしろTVに逃げずに、どっぷりその世界にはまるっ!

油断すると涙がどばーですよ(^^)
がんばってー。あっちがう!楽しんでねー(^^)

aoi-soraさんのコメント
2022/06/04

お疲れさまです。
何だかスゴイ作品ですね。
30年間で、ぶっちぎりの一位って、確かに興味あります!
だけど私もまっちゃん同様、土瓶さんのレビューで大満足です(笑)
「少年と犬」で現代の日本へ戻ってきてね(^^)

ひまわりめろんさんのコメント
2022/06/04

土瓶さん
こんにちは!

そうなんですよね!
『薔薇の名前』海外ミステリ好きなら一度は読むべき名作なのは分かってるんです
分かってるんですがもう見るからに難解そうでしかも長いという高くそびえ立つ壁のような作品だと思って自分も二の足三の足を踏んでたんです

遂に土瓶さん行きましたか〜
★の評価は低めですが土瓶さんにここまで厚みのあるレビューを書かせるってことが力のある作品だってことの証明になってる気がします

土瓶さんのレビューが自分にとっての転機になりそう
そんな予感を感じさせるレビューありがとうございました!

(でもたぶん自分は『少年と犬』を先に読むと思われますw)

まことさんのコメント
2022/06/04

土瓶さん。こんにちは♪

私もこの本は十数年前から、積んでいます。
凄いですね。
読むのに1か月もかかったのですね。
私も読みたいけれど、この本にかかりきりになってしまうと、ブクログにレビューが全然投稿できなくなってしまうので(笑)ブクログ卒業後まで、お預けです。
本当に読んでみたい本が後回しになるのは、本末転倒ですが。
土瓶さん、凄いです!

土瓶さんのコメント
2022/06/05

まっちゃん、aoiさん。
ありがとー♪

行くよ! 帰るよ! 闘うよ!!
涙腺、鍛えまくるからねっ!!!

ひまわりめろんさん。

やはり知ってましたね。ヤツを!
でも、意外と読めますよ。ちまもとま

それほど細かい文字でもないし、細かい描写やキリスト教世界の背景なんかは流して読んで、ストーリーの部分を主に読んでいけば……。
ただ……人物の判別に苦労しますね。
人物表が付いてはいますが、それを最後まで参照しながら読むことになります。

まことさーん。

十数年前から積んでいるって、そちらの方が凄いです。
読みはじめてみると、けっこうなんとかなるもんですよ^^

hiromida2さんのコメント
2022/06/08

土瓶さん、お疲れ様〜(*^o^*)

すごく難解で値段もお高い本ですね〜!
私もずーっと前に主演ショーン.コネリーの
映画は観ました!まさに名作(^-^)v
とてもいい映画だったことを覚えています。
映画の方が断然観やすいでしょうね。
本のレビュー拝見してるだけで…頭の中が、
ぐるぐる(≧∀≦)土瓶さんのレビューで
読んだ気になっています(^^;;
レビューありがとうございました♪
それから、私も『少年と犬』
メチャ気になっています、早く読みたい!
気になる本が多過ぎて、遅読も重なり
積読本も増え…いつになることやら(・・;)
土瓶さん「泣くもんかー‼︎」笑
私は絶対泣いてしまう自信ありです(´⊙ω⊙`)

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