表題はラ・フォンテーヌの寓話から。親しくなった老人の安眠を守るために集りくる蝿を追い払おうと、「敷石をひとつつかむと、それを思い切り投げつけ」、「老人をその場で即死させ」てしまう。この訓話から「いらぬお節介」「無知な友人ほど危険なものはない」といった意味らしい。
・作品には、カマンベールチーズ・ペタンク・敷石、それらを「投げる」イメージが周到に配置されている。投げること。「敷石」を投げつける「熊」。その野蛮で「暴力的」なイメージ。
・語り手はユダヤ人の友人と、或いは全盲の子とその母親と「なんとなく」によってつながった関係性を有している。そのような関係のもとで、親しげな、ときに「パイ」を供応される親密な関係性も構築されてはいる。
・だが、「なんとなく」が瀰漫したところでも、事後的にしか確認し得ない形で「何か」は「投げられて」いたかもしれない。(コミュニケーションの場面で出来する「他者性」。あるいはそこでの根源的な「暴力」?)
・作品では、振舞われた「パイの甘み」が虫歯に響き「身体の内側を貫通する針金を抜かれているような痛み」が「私」を襲う。「歯の痛み」すなわち「私」には統御し得ない何者かとしての「他者」が露呈する瞬間)が生じる可能性は、誰もが「なんとなく」の関係で他者と関係しているなかでは、既に常に胚胎しているのだし、だから誰もが「熊」になり得る。
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- 感想投稿日 : 2008年3月20日
- 読了日 : 2008年4月27日
- 本棚登録日 : 2008年3月20日
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