気違い部落周游紀行 (冨山房百科文庫 31)

著者 :
  • 冨山房
3.44
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本棚登録 : 243
感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784572001313

作品紹介・あらすじ

失われたアイデンティティーを模索していた敗戦直後の時代状況に適合し、著者の名を一躍高めた書物。山村の生活を観察記録風に叙しながら、都会文化が進展し生活様式に変化が生じても今なお原理的な、日本人の前論理的世界を澄明に活写している。

感想・レビュー・書評

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  •  挑発的なタイトルであるが内容は古き良き時代のインテリの文章だ。“大学の先生”が戦後すぐに東京を離れて田舎の山村(と言ってもおそらく関東)に住み、村人と共に暮らしてそこで起きたことや見たものを書いている。

     普通ならこういう田舎の暮らしは「牧歌的」とか「純粋」とかいう言葉で美化され、「都会人が失ってしまった大切な心の交流が‥‥」などと描かれることが多い。しかし本書はまったく違う。怠けたり人を出し抜いたりする人間の醜い姿が包み隠さずさらされており、息子が書いた文庫版のあとがきによれば、本書発行後は少々きまずい関係になったようだ。

     とはいえ、本書に出てくる人々の醜さは、振り返れば我々にだって備わっているものであり、普段は隠して表に出さないだけで、田舎だろうが都会だろうが関係ない人間の本質だろう。だから、読んでいても彼らに対する嫌悪感はわいてこない。

     なんとも評価しづらい本だが、面白いのは面白い。シニカルな笑いがこみあげるが、その笑いの対象は自分も含まれているのは間違いない。

  • マルセル・モースのもとで人類学を学んだ著者が、戦中から戦後にかけて暮らすことになった山村での人間関係を、エスプリの利いた筆致でえがいた本です。

    近代的な社会に生きているつもりの日本人にとって、本書で明かされている閉鎖的な集落の掟が、遠い世界のことであるように思える一方、現在のわれわれの行動もこれに類する暗黙の了解に束縛されていることに気づくことになるのではないかと思います。人類学を学んだ著者は、そうした前近代的な社会のしくみをただ批判しているのではなく、現代社会の深層を掘り起こして、普段は忘れ去られているものの今なお根強く存在している構造を明らかにしています。

    吉本隆明は、柳田國男などの民俗学に学びつつ、「大衆の原像」という拠点に立って丸山眞男に代表される戦後の啓蒙主義的な社会像に対する批判をおこないましたが、著者は閉鎖的な集落の境界に位置をとることで、吉本が見ようとしていた大衆のとらえがたい性格にせまろうと試みたということができるのではないかと考えます。

  • 社会
    ノンフィクション

  • 新書文庫

  • きだみのる『気違い部落周游紀行』(冨山房、1981)を読む。

    えげつないタイトルで図書館でも貸出禁止になっていますが、中身は正統派社会学に連なるものです。

    ファーブル昆虫記などの翻訳で知られる著者は戦前からフランス留学をした国際派。しかし敗戦のあおりで日本に「閉じ込められて」しまうことに。

    それなら内部の探検だ!とばかりに八王子の古寺に居を構え、曰く「気違い部落」の愛すべき英雄たちの観察日記を雑誌連載。(曰く「珍らしい菌や昆虫の不思議な行動の観察と同じ」と。)そのまとめがこれです。

    自ら漢籍、ギリシャ古典に詳しいというだけあって戦前知識人の重厚な、でありつつ諧謔を秘めた文体もなかなかに味わい深いものです。

    一見知識人の傲慢にも思えますが、禅的反語で愛情の裏返しなのかもしれません。(続編がシリーズ化しています)

    【本文より】
    ◯だがもし部落の勇士たちが、自己を常に中庸或は中道を歩き、その行動の基礎をなす判断は、一般の人がしかく思い込みたがるように、恰も常に謬りなく中正であると信ずる習慣を持って云云しているのだったら、彼らは殆ど存在しない中庸人の地帯上にあるというよりも、むしろ真実気違いに属する症状を示していると考うべきであろう。

    ◯思考の結果は極めて犀利な場合もあるが、思考を導く方法に欠陥がある場合には思考の病気を表すこともある。何れにもせよ、観察者に深い興味をそそることは、珍らしい菌や昆虫の不思議な行動の観察と同じである。

  • 今更、という感じだけど、やっと読んだ。面白いことは想像がついていたけれど、若いときはこの題名への嫌悪感を土井しても超えられなかった。読んだらやっぱり面白い。教養のある知識人の文明批判日本文化表という感じ。しかし何でこの題名にしたのから読み終わってもよくわからぬ。

  • 戦後すぐの知識人のあり方として、「進歩的」であるというのはこういうことだったんだろう。単なる啓蒙でもなく、さりとて「封建遺制」に寄り添うわけでなく、ある種冷笑的に(そう読めましたが?)大衆を観察した記録である。本書を発表後、著者が村にいられなくなったのは至極当然である。あとがきにご子息が「本書を読み、本当に気違い部落だと感じたら、その人が気違いである」という意味のことを書いているが、著者自身が彼ら部落に含まれる存在だと感じていたかどうか、そこにはやはり、決定的な距離があったろう。

  • 外界と切り離された地理条件を持つ村落に、著者が実際に入村。「寺の先生」として暮らした体験をもとに記したノンフィクション。学問的知性を排除した、むき出しの人間性に接近する「社会学」として読める。そして別の鑑賞法として、常識が揺さぶられてゆき、ところどころ観察者としての立ち位置が怪しくなる「冒険譚」の側面もあろうか。

  • f at arc aug 29,13
    b and r
    not so good

  • (推薦者コメント)
    第2回毎日出版文化賞受賞作。書名だけ見るとまるで差別の塊のような本だが、そういうことではない。著者が見て回った部落の人々を考察と共に書き綴った紀行文である。実はそこから、日本人の考え方、行動論理の型が見えてくるのだという。著者は部落の人々を通して「日本人そのもの」を見たのである。いわゆる「日本人論」に興味のある人へおすすめしたい。

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