夏秋冬、と見てきて、率直な感想として、食うために生きてるな、と思った。最終章である春の終盤のほうに、地域の伝統舞踊のようなものをいち子たちが演じるシーンが流されるが、そこまで見終わったとき、たしかに食うことは生きることだし、食うためにはその恩恵を与えてくれる自然の一部となって、その結果その地域で同じように自然の一部となっている地域の人々と生命を共有するんだと思った。運命共同体という表現よりは、皆等しくその土地に根を張った植物のようで、巨大な自然の一部となって一つのうねりの中にいる、といったほうが適切な感じのするイメージ。田舎の生活というのは何につけても窮屈で排他的だと思っていたけど、それはつまるところ一つの大きなエコロジーがあるからかもしれないな、と感じた。
母の手紙に書かれていた円とらせんの話が印象に残ったのと、上司の悪口を言うキッコに対し祖父が「人のことを悪く言うのは、自分の中にもそういうずるい心があるからだ」と叱りつける場面も感じ入るものがあった。が、総じてやはりストーリーうんぬんはおまけのようなもので、とにもかくにも映像の美しさにどっぷりと浸かり、日本的な四季それぞれの花鳥風月を思い出し噛みしめるような楽しみ方を提供してくれる作品ではないかと思う。
ただ個人的には、こういうストーリー性の希薄な作品というのは、あまり入り込むタイプのものではないせいか、鑑賞中も画面の中の人間の営みからふと我が身のことを対比的に考えてしまって、そしてなんとなく自分が悲しくなって、しばしば現実に引き戻されて集中できず、雑念たっぷりの鑑賞となってしまったのがややつらかった。雑念にまみれた汚れた存在の私が悪いのですが。
- 感想投稿日 : 2023年9月6日
- 読了日 : 2023年9月4日
- 本棚登録日 : 2023年9月2日
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