猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫 お 17-3)

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年7月8日発売)
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本棚登録 : 8097
感想 : 771
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 小川洋子さんの物語は、読み手の心にしんしんと静かに降り積もる雪のよう‥。静謐で哀切を帯びた見事な筆致は、崇高さも同居し読み手を惹きつけ離しません。心に染みる上質の作品で、本書もまさしく傑作だと思いました。

 本書は、チェスに魅せられた一人の内向的な少年の人生を描いた物語です。閉じた世界は幻想的で、言葉一語一語が美しく滋味溢れ、ゆっくりと時間をかけて読み味わいたいと感じさせます。

 少年の才能を見出し、チェスの世界に導いたマスター。その教えが、少年にとって生涯を通して警句となり灯台となり支柱となるのでした。
 大切な人との出会いと別れ、才能が開花しても決して表舞台には現れない運命、けれども純粋に勝負や名声を超越した、チェスの宇宙を自由に旅する喜びを知った少年‥。時に残酷で切なく、慎ましく優しい少年の物語は、まるで詩か芸術のようです。
 チェスの盤上で紡がれる世界の広大さや奥深さは、そのまま言葉の世界を探索する小川洋子さんと重なり、その著者の世界観に圧倒されました。

 チェスが解らなくても十分楽しめますし、三人称で描く物語は、説明過多にならず静かに語りかけてくる感触です。
 小川洋子さん作品は、『博士の愛した数式』以来2冊目の読了でしたが、いずれも素晴らしかったです。個人的には「タイトルの秀逸さも含めて本書を〝推し〟たい」と思える、充実した読書の時間がもてました。また新たな素晴らしい本との出会いに感謝したいと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年5月26日
読了日 : 2023年5月26日
本棚登録日 : 2023年5月26日

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