女のいない男たち (文春文庫 む 5-14)

著者 :
  • 文藝春秋 (2016年10月7日発売)
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感想 : 784
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⚫︎受け取ったメッセージ
人を好きになり、分かりあうことの難しさを思った
現実味のある村上ワールド



⚫︎感想
映画化された「ドライブ・マイ・カー」


村上氏はずっと「意識と無意識」をテーマに書いているとのことで見せ方は異なれど、常に一貫している。


・ドライブ・マイ・カー
映画化もされた作品。映画も見たが、映画は本作にかなり忠実にベースにした上、広がりやイメージも付加されている。本作も映画もとてもいいと思った。また読みたいし、見たいと思う。

妻の浮気相手である高槻は「どれだけ理解し合っているはずの相手であれ、どれだけ愛している相手であれ、他人の心をそっくりのぞき込むなんて、それは出来ない相談です。そんなことを求めても、自分が辛くなるだけです。しかし、それが自分自身の心であれば、努力さえすれば、努力しただけしっかり覗き込むことはできるはずです。ですから、結局のところ、僕らがやらなくちゃならないのは、自分の心と上手に正直に折り合いをつけていくことじゃないでしょうか 本当に他人を見たいの望むのなら、自分自身を、深くまっすぐ見つめるしかないんです。僕はそう思います。」という言葉に打たれ、家福の心に届く場面が好きだ。結局は、家福は妻の深いところに入りきれず、不倫を見なかったことにし、妻の前でも良き夫の演技をし、嫉妬していたり、遠慮したりしている自分自身も見て見ぬふりをしてきたのだった。役者である家福は、それを自然にやってのけられる技量があるせいで、それは無意識的に自分を守るためだったかもしれない。

みさきの、若いのに達観している格好よさには惚れ惚れする。家福が自分の心を素直にみさきに吐露するところ、みさきが、他人の理解し得ない部分を「病」と簡潔に言ってのけるところが、いい。もやもやした部分に名前を与えることで、みさきは家福を救っている。そして家福の娘(幼年で亡くなったが)と同年齢設定にしてあるところもいい。よく考えられた作品だと思った。

※他印象に残った作品

・イエスタデイ
関西生まれではないのに後付けでコテコテの完璧な関西弁を身につけて話す大学生時代の友達。ユニークで切ない気持ちになる作品だった。

・独立器官
そつなく生きてきた50過ぎの美容外科医の男を通して描かれる作品。スマートに恋愛を謳歌してきた恋をして食べ物が喉に通らなくなり拒食症のようになり死んでしまう。それまでの上部の恋愛しか知らなかったそれまでの彼と、相手の質はどうあれ、そこまで恋焦がれ、身を滅ぼした彼と、どちらが幸せなのかはわからない…が、そんな男がいたということを忘れないために、書いたという設定。

・木野
傷つくべきときに十分傷つかないと、感情を押し殺してしまっては、中身のない虚ろな心を抱き続けることになる。最後に自分の心と向き合い、自分のために涙できて良かった。


人は、無意識に自分を守ろうとしてしまう。無意識の領域なので、何かに侵食されていても気づかない。そういったものが、意識的には平気なのに、体調不良、肌荒れなどに現れてくる。ああ、自分が意識している以上にストレスを感じているのだなぁという経験がある。
しっかり問題と向き合うことは、たしかに苦しい。が、腰を据え、一度自分の中で問題部分を見つめ、時間をかけ、言葉にし、乗り越え納得することができたときには、本当に苦しみから解放される。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年1月5日
読了日 : 2024年1月5日
本棚登録日 : 2024年1月5日

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