遺体: 震災、津波の果てに

著者 :
  • 新潮社 (2011年10月27日発売)
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本棚登録 : 1520
感想 : 263
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読み始めたらやめられなくなってしまった。
圧倒的な事実の重みに言葉を失う。
私の五感の記憶のすべてを総動員し、想像力を駆使して、必死で文章を追い続けた。

著者は震災後ほどなく、岩手県釜石市に入る。
本書はそこで、遺体をめぐって黙々と動き続けた人たちに焦点をあて、
それぞれの視点から語られた記録である。
遺体の探索、運搬、安置、検視、読経…・・・
これら人が死に、遺体となってから関わる一連の流れに、ほとんど多くの人が無償で関わっている。
それは気の遠くなるような膨大な作業であり、重い任務である。
新聞やテレビ、メディアが報道してきたレベルではない。

釜石は街の半分が残ったことにより、遺体に関わる一連の流れを地元の人間の手によって取り仕切ることができた。
それは、友人、知人、顔見知りの誰彼の死を自分が受けとめねばならない辛い作業だ。
でも、たとえば陸前高田では、この一連の作業にあたるのは、土地の文化も言葉すら、よくわからないよその土地の人間だったという。
陸前高田は全壊してしまったから、土地の人間が携わりようもないのだ。
そう考えれば、地元の人間によって、人としての最期の時を扱われた「遺体」は幸せだったはずだ。
少なくとも、ここに登場する、ごく普通の市井の人々の見せる行動は、そう思わせてくれる。

今、あの日の記憶が、私の中では急速に薄れている、
だって、私自身の生活は何ら変わっていないのだから。
だからこそ、あの日の現実をちゃんと知りたい。
「頑張れ、日本」や「絆」など、耳に心地よい言葉で済ませるのではなく、
どんなにむごたらしかろうと、現実を直視する機会を私たちは持たねばならないはずだ。
あの日から、私たちは何をやってきたんだろう・・・・・・

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2011年12月20日
読了日 : 2011年12月20日
本棚登録日 : 2011年12月20日

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