先日読んだ『ツナグ 想い人の心得』の前作。
こちらを読んだのが相当前だったので再読。
やはり詳細は忘れていたので再読してみて良かった。
<ツナグ>シリーズの第一作となるこの作品は、渋谷歩美という男子高校生が『ツナグ』の役目を祖母の実家が代々引き継いでいることを知り、その役目を祖母から正式に引き継ぐまでを描く。
『死んだ人間と生きた人間を会わせる窓口』という摩訶不思議な役目と、それをずっと自分が知らないところで祖母が行っていたことに驚き、その役目を自分が引き継ぐことの戸惑いや重み、その役目自体の意味を歩美なりに考え受け止めていく。
最初にこの作品を読んだときはもっとファンタジー寄りにして良いのではないかと思ったが、今作と続編の『想い人の心得』を読むと、これはあくまでも辻村さんらしい人間ドラマなのだと感じた。だから使者という摩訶不思議な役目を負うのが男子高校生で良いのだ。
友人関係を築き部活動を楽しむ高校生であり入院中の祖母を気遣う孫でありながら、一方で使者として様々な人間模様や人生を見つめ、そこから自分の人生、生きる意味、使者という役目を知ることは重要なのだろう。
「アイドルの心得」で職場の人々からも身内からも馬鹿にされている地味な女性の辛い環境、「親友の心得」で誰よりも仲良しと見られる二人の女子高生の腹の中など、実に辻村さんらしい厭らしさだ。
「アイドルの心得」では急死したアイドルに会ったことによって女性は少し前向きな変化があるが、「親友の心得」は会ったことによって重い十字架を背負うことになる。
「親友の心得」は生者の側から描かれているので生者のずるさと傲慢さと苦悩が描かれるが、私から見ると死者の側も相当たちが悪い。最後まで生者が見ていた親友らしさを貫いたところは結局のところ死者の方が一枚も二枚も上だったということか。
生者の方はどんな結果になっても全てを話すべきだったと後悔するが、それはどうだか。
「長男の心得」では、逆に本心など語らなくても伝わることがある、分かっているという話。
親子だから当然といえば当然なのだが、このおおらかな亡き母の前では長男として本家を背負う者として必死で纏ったプライドなどあっという間に剥がれてしまう。
そして「待ち人の心得」。こちらは生前語られなかった物語を死者が全てさらけ出すのだが、「親友の心得」とは違って聞いて良かったと思える話。
死者はもう蘇らないし、受け取り方によっては更に悲しみや悔いが強まるのかも知れないが、少なくともこの話の生者は違っている。
こうしてみると実に様々な生者と死者がいて、それぞれの人間関係があって、人生がある。
そんな中で歩美は少しずつ使者としての覚悟や責任を持ち始める。
最後の話では歩美の亡くなった両親についての話もあった。やはり使者というのは生半可な覚悟では出来ないということを思い知った。そして祖母が何故こんな大変な役目を孫の歩美に引き継ごうとしたのか、その深い思いも知った。
この両親の話はすっかり忘れていたのだが、これがあっての続編の最後、歩美がある決意をすることに繋がるのかと納得出来た。
- 感想投稿日 : 2020年6月16日
- 読了日 : 2020年6月16日
- 本棚登録日 : 2020年6月16日
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