マリアビートル (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2013年9月25日発売)
4.14
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本棚登録 : 22235
感想 : 1601
5

殺し屋シリーズの二作目。グラスホッパーと同じくらいの厚さかと思ったがとても分厚くなっていて驚いた。新幹線の車内での二時間半がいかに大変だったのかが伝わってくる。息子の復讐をしようとする元殺し屋の木村、凶悪な心と強い運を持つ王子、運が悪すぎる殺し屋の天道虫、トーマス好きな殺し屋の檸檬と相棒の蜜柑。この5人を中心に物語が進む。5人とも面白く、スリル満点の伊坂さんの傑作。

前作のグラスホッパーから三年も経ったはずなのに上手く物語が繋がっていて、物語はさらに面白くなってて、読むスピードも早くなった。伊坂さんの成長と凄さが感じられた。最後の真莉亜が迎えに来てくれたところは本当に安心した。箱に蜜柑と檸檬が半分ずつ入っているところは全く不自然に感じず感動した。

この作品のどの人物も面白かった、がその中でも王子はこの作品の特徴だ。こんな中学生がいるなんて思えないけど、伊坂さんの書き方が上手いからか全く違和感がなかった。伊坂さんは物語を作るのが圧倒的に上手い。王子は小学生の頃から人殺しを始め、これまで何人も殺してきた凶悪な人物だが、いくつか彼から学んだことがある。
「見た目や年齢に左右され、相手の能力を低く見積っている。」
改めて、見た目や年齢に左右されてはいけないと思った。だが、蜜柑や檸檬もこの物語で実際に怪しい奴を探そうとしている。外観に左右されてはいけないが、それは自然なことだという伊坂さんの考えが書かれている気がした。
「大事なのは、(正しくないことを)『信じさせる側』に自分が回ることなんだ」
王子は自分が他人よりも上の立場につこうとしていることは物語を通して実感できる。この言葉は典型的な悪役のセリフに聞こえるが、私はそう思わない。人の上に立とうとする人は誰もが信じさせる側に回ろうとしていると思う。言葉を選んで、良さそうに聞こえさせる。これも伊坂さんの考えなのかもしれない。

新幹線の車内で二時間半の間で何人も人が倒れていくこの物語。それぞれの人物が魅力的で、物語もスムーズに進む。本当に本の世界に入ったような感覚で読むことができる。本当にいい作品だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2021年8月3日
読了日 : 2021年7月31日
本棚登録日 : 2021年7月31日

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